甘苦とコンプレックス・ラブ
#4 やきもちとはじめて
#4 やきもちとはじめて
○ステージ撤収後、軽音楽部の部室前
凛太郎、ソフトケースに入った留依のギターを右肩に掛けている。正面からやってきた悟に笑顔で話しかけられる。悟はエフェクターケースを持っている。
悟「まなちゃんって、やっぱり可愛いね。目パッチリしてて、オシャレで、スタイル良くて」
悟「あんな子と付き合ってるの、羨ましいなあ」
凛太郎が不快そうに顔をしかめる。まなの姿を思い出して鼓動が速くなる。
凛太郎「どうして悟が、まなのこと知ってんだよ」
悟「俺、可愛い子はしっかりチェックしてるから」
凛太郎「チェックって」
悟「毎日のように一緒に来てるのも知ってるよ。凛太郎、周りにめちゃくちゃ睨み利かせてるよね」
凛太郎「別に、そんなわけじゃねえけど」
悟「まなちゃん、今にも泣きそうな顔してたから話しかけちゃった。ついでに手も握っちゃった。ごめんね」
凛太郎、ギターケースを思いきり壁にぶつける。足を止めて、悟を睨みつける。
凛太郎「は? おまえ、何やってんの?」
悟、ヘラヘラ笑っている。凛太郎、黙って部室のドアを開ける。背後から留依の声がする。
留依「凛太郎の彼女、わたしも見たかったなぁ。可愛いんでしょ?」
凛太郎と悟が同時に振り向く。留依が微笑んでいる。
凛太郎「留依さん、帰ったんじゃなかったんですか?」
留依「んー、そのギター、今日の深夜練で使おうかなって」
凛太郎が留依にギターを手渡す。
悟「最初から自分で持ってりゃよかったんじゃないですか。なんでも凛太郎に押し付けないで」
悟が冷たい視線を留依に向ける。
悟「バレバレなんすよ」
留依「なぁにそれ、先輩に対する態度じゃなくない?」
悟「凛太郎の彼女、可愛いですよ。胸もでかいし。じゃ、俺は先に行きます」
悟、持っていたケースをその場に置く。部室に入らずサークル棟の入口に向かう。
凛太郎 「おい、悟……」
留依「あいつ、わたしのこと、遠回しに貧乳って言った?」
凛太郎「言ってないですよ。すいません、俺もお先です」
凛太郎、振り返らずにサークル棟を出ていく。スマホを取り出して、まなの番号を呼び出す。
○大学から駅までの道
まなと凛太郎が駅に向かって歩いている。まなは凛太郎の半歩後ろを歩いている。
まな「なんなの、急に」
凛太郎「バイト20時からだし、時間あるから」
まな「答えになってないんだけど」
凛太郎「いいから、早く歩けよ」
凛太郎、まなの左手を強引に握る。思わず顔を上げるまな。凛太郎の表情は見えない。
まな「なんなのよ、ほんとに」
凛太郎「俺んち来いよ。今日は片付いてるから」
○凛太郎が住むアパートの前
まな、階段を上っていく凛太郎に続く。きょろきょろして、戸惑っている。
まな(いったいどうしたんだろう。家が汚いから入れたくないって、ずっとはぐらかされてきたのに)
凛太郎「なに突っ立ってんだよ。鍵、開いたぞ」
まな「あ、うん……お邪魔します」
まな(わたしたち、まだキスもしていないのに)
○凛太郎の部屋
玄関には靴が三、四足転がっている。間取りは1K、玄関の左手にキッチン、奥がリビング。リビングの窓際にはベッド、その横にはベースが2本立て掛けてある。フローリングの床にはファッション誌や音楽雑誌、ジャケットやトレーナーが散乱している。
まな「これで片付いてるってことは、いつもはもっとひどいの?」
凛太郎「……今日は、マシなほうだと思ったんだけど」
まな、 ため息をついて散乱している雑誌をまとめて本棚に入れる。ジャケットやトレーナーを畳んで、本棚の前に置く。
まな 「そういえば凛太郎って、昔から片付け苦手だったもんね。定期的に片付けに来てあげよっか」
凛太郎「来て、くれんの?」
まなが振り向こうとすると、凛太郎がすぐ近くにいる。まな、はっとして前を向く。
凛太郎、まなを背後から抱きしめて長い髪に顔を埋める。まなは俯いている。
凛太郎(部屋が片付いてるなんて嘘だ。どう誘ったら変に思われないか、ずっと考えていた)
凛太郎、まなの右手と左手を順番に握る。
凛太郎(どっちの手を握られたんだ? 他の男に簡単に触られてんじゃねえよ)
まな「り、凛太郎……あの」
凛太郎「こっち向けよ」
凛太郎、抱きしめる腕に力を込めてまなの耳元で囁く。
まな「今、凛太郎の顔、見れない」
凛太郎「どうして」
まな「恥ずかしくて、無理」
凛太郎がまなの顔を覗き込もうとすると、まなが躊躇いがちに凛太郎の方を向く。
まな(メイク崩れてないかな。こんなに至近距離で見つめられるなんて)
凛太郎「おまえ、震えすぎ」
凛太郎がまなの後頭部に手のひらを添える。ゆっくりと唇が重なる。
凛太郎「そんなに震えなくてもいいだろ」
まなが目を瞑ると、凛太郎にもう一度キスされる。唇が離れたあと、まながそっと自分の唇に触れる。
また後ろから凛太郎に抱きしめられる。凛太郎の鼓動も自分と同じくらい速いことに気づく。
まな(凛太郎も、少しはドキドキしてくれてるのかな)
凛太郎、まなの髪の隙間から覗く首筋にドキッとして、衝動的にそこに唇を押し当てる。
まな「あっ……」
凛太郎、髪をかき分けて首筋に何度もキスをする。
まな「や、なにしてるの、凛太郎……っ」
凛太郎「おまえがこっち向かないから、悪いんだろ」
まながちらっと凛太郎の顔を見る。凛太郎がまなの唇を奪う。角度を変えて何度もキスをする。
まな「凛太郎……っ、だめ、息できないから待って」
まなが凛太郎の身体を弱々しく押し返す。まなは目を潤ませて頬を真っ赤に染めている。
凛太郎 「……おまえ、初めて?」
まな「うるさい。いちいち言わないでよ」
まな、そっぽを向いてしまう。着ているニットの裾を両手でぎゅっと掴んでいる。
凛太郎(マジかよ。……やばい。ずっと好きだった女のファーストキス、って)
二人の間に微妙な空気が流れる。凛太郎、悶々とした後に急に立ち上がる。
まな「ねえ、凛太郎」
凛太郎「なんだよ」
まな、座ったまま凛太郎を上目遣いで見上げる。凛太郎、胸の谷間を見てしまい、たじろいで思いきり目を逸らす。
凛太郎「おまえ、もうちょっと服の布面積増やせ。あと、髪も染め直せ。化粧も薄くしろ」
まな「なんなの、急に」
凛太郎「俺はバイトに行くから、おまえも帰れ」
まな「バイトは20時からじゃ」
凛太郎、無言でトイレに入ってしまう。ぽかんとするまな。
まな(「好き」とか「可愛い」とか、一回も言ってもらえなかった)
まな(わたしのこと、ちゃんと好きでいてくれてるって思ってもいいの?)
まな、自分の唇をそっと撫でる。
○ステージ撤収後、軽音楽部の部室前
凛太郎、ソフトケースに入った留依のギターを右肩に掛けている。正面からやってきた悟に笑顔で話しかけられる。悟はエフェクターケースを持っている。
悟「まなちゃんって、やっぱり可愛いね。目パッチリしてて、オシャレで、スタイル良くて」
悟「あんな子と付き合ってるの、羨ましいなあ」
凛太郎が不快そうに顔をしかめる。まなの姿を思い出して鼓動が速くなる。
凛太郎「どうして悟が、まなのこと知ってんだよ」
悟「俺、可愛い子はしっかりチェックしてるから」
凛太郎「チェックって」
悟「毎日のように一緒に来てるのも知ってるよ。凛太郎、周りにめちゃくちゃ睨み利かせてるよね」
凛太郎「別に、そんなわけじゃねえけど」
悟「まなちゃん、今にも泣きそうな顔してたから話しかけちゃった。ついでに手も握っちゃった。ごめんね」
凛太郎、ギターケースを思いきり壁にぶつける。足を止めて、悟を睨みつける。
凛太郎「は? おまえ、何やってんの?」
悟、ヘラヘラ笑っている。凛太郎、黙って部室のドアを開ける。背後から留依の声がする。
留依「凛太郎の彼女、わたしも見たかったなぁ。可愛いんでしょ?」
凛太郎と悟が同時に振り向く。留依が微笑んでいる。
凛太郎「留依さん、帰ったんじゃなかったんですか?」
留依「んー、そのギター、今日の深夜練で使おうかなって」
凛太郎が留依にギターを手渡す。
悟「最初から自分で持ってりゃよかったんじゃないですか。なんでも凛太郎に押し付けないで」
悟が冷たい視線を留依に向ける。
悟「バレバレなんすよ」
留依「なぁにそれ、先輩に対する態度じゃなくない?」
悟「凛太郎の彼女、可愛いですよ。胸もでかいし。じゃ、俺は先に行きます」
悟、持っていたケースをその場に置く。部室に入らずサークル棟の入口に向かう。
凛太郎 「おい、悟……」
留依「あいつ、わたしのこと、遠回しに貧乳って言った?」
凛太郎「言ってないですよ。すいません、俺もお先です」
凛太郎、振り返らずにサークル棟を出ていく。スマホを取り出して、まなの番号を呼び出す。
○大学から駅までの道
まなと凛太郎が駅に向かって歩いている。まなは凛太郎の半歩後ろを歩いている。
まな「なんなの、急に」
凛太郎「バイト20時からだし、時間あるから」
まな「答えになってないんだけど」
凛太郎「いいから、早く歩けよ」
凛太郎、まなの左手を強引に握る。思わず顔を上げるまな。凛太郎の表情は見えない。
まな「なんなのよ、ほんとに」
凛太郎「俺んち来いよ。今日は片付いてるから」
○凛太郎が住むアパートの前
まな、階段を上っていく凛太郎に続く。きょろきょろして、戸惑っている。
まな(いったいどうしたんだろう。家が汚いから入れたくないって、ずっとはぐらかされてきたのに)
凛太郎「なに突っ立ってんだよ。鍵、開いたぞ」
まな「あ、うん……お邪魔します」
まな(わたしたち、まだキスもしていないのに)
○凛太郎の部屋
玄関には靴が三、四足転がっている。間取りは1K、玄関の左手にキッチン、奥がリビング。リビングの窓際にはベッド、その横にはベースが2本立て掛けてある。フローリングの床にはファッション誌や音楽雑誌、ジャケットやトレーナーが散乱している。
まな「これで片付いてるってことは、いつもはもっとひどいの?」
凛太郎「……今日は、マシなほうだと思ったんだけど」
まな、 ため息をついて散乱している雑誌をまとめて本棚に入れる。ジャケットやトレーナーを畳んで、本棚の前に置く。
まな 「そういえば凛太郎って、昔から片付け苦手だったもんね。定期的に片付けに来てあげよっか」
凛太郎「来て、くれんの?」
まなが振り向こうとすると、凛太郎がすぐ近くにいる。まな、はっとして前を向く。
凛太郎、まなを背後から抱きしめて長い髪に顔を埋める。まなは俯いている。
凛太郎(部屋が片付いてるなんて嘘だ。どう誘ったら変に思われないか、ずっと考えていた)
凛太郎、まなの右手と左手を順番に握る。
凛太郎(どっちの手を握られたんだ? 他の男に簡単に触られてんじゃねえよ)
まな「り、凛太郎……あの」
凛太郎「こっち向けよ」
凛太郎、抱きしめる腕に力を込めてまなの耳元で囁く。
まな「今、凛太郎の顔、見れない」
凛太郎「どうして」
まな「恥ずかしくて、無理」
凛太郎がまなの顔を覗き込もうとすると、まなが躊躇いがちに凛太郎の方を向く。
まな(メイク崩れてないかな。こんなに至近距離で見つめられるなんて)
凛太郎「おまえ、震えすぎ」
凛太郎がまなの後頭部に手のひらを添える。ゆっくりと唇が重なる。
凛太郎「そんなに震えなくてもいいだろ」
まなが目を瞑ると、凛太郎にもう一度キスされる。唇が離れたあと、まながそっと自分の唇に触れる。
また後ろから凛太郎に抱きしめられる。凛太郎の鼓動も自分と同じくらい速いことに気づく。
まな(凛太郎も、少しはドキドキしてくれてるのかな)
凛太郎、まなの髪の隙間から覗く首筋にドキッとして、衝動的にそこに唇を押し当てる。
まな「あっ……」
凛太郎、髪をかき分けて首筋に何度もキスをする。
まな「や、なにしてるの、凛太郎……っ」
凛太郎「おまえがこっち向かないから、悪いんだろ」
まながちらっと凛太郎の顔を見る。凛太郎がまなの唇を奪う。角度を変えて何度もキスをする。
まな「凛太郎……っ、だめ、息できないから待って」
まなが凛太郎の身体を弱々しく押し返す。まなは目を潤ませて頬を真っ赤に染めている。
凛太郎 「……おまえ、初めて?」
まな「うるさい。いちいち言わないでよ」
まな、そっぽを向いてしまう。着ているニットの裾を両手でぎゅっと掴んでいる。
凛太郎(マジかよ。……やばい。ずっと好きだった女のファーストキス、って)
二人の間に微妙な空気が流れる。凛太郎、悶々とした後に急に立ち上がる。
まな「ねえ、凛太郎」
凛太郎「なんだよ」
まな、座ったまま凛太郎を上目遣いで見上げる。凛太郎、胸の谷間を見てしまい、たじろいで思いきり目を逸らす。
凛太郎「おまえ、もうちょっと服の布面積増やせ。あと、髪も染め直せ。化粧も薄くしろ」
まな「なんなの、急に」
凛太郎「俺はバイトに行くから、おまえも帰れ」
まな「バイトは20時からじゃ」
凛太郎、無言でトイレに入ってしまう。ぽかんとするまな。
まな(「好き」とか「可愛い」とか、一回も言ってもらえなかった)
まな(わたしのこと、ちゃんと好きでいてくれてるって思ってもいいの?)
まな、自分の唇をそっと撫でる。