未来へ進む三つの絆

第2章：「心の距離」

次の日、沙樹は学校に向かう道中、修とのやり取りを何度も思い返していた。あの微笑み、彼の優しい声、自分の好きな本の話を共有できたこと——すべてがまるで夢のようだった。こんな風に誰かと心を通わせる経験は、沙樹にとって初めてだった。修の存在が彼女の心を大きく揺さぶり、今までの平凡な日々に小さな波紋を広げていた。

教室に入ると、いつものように自分の席に向かう沙樹。彼女の周りには友達が少なく、特に親しい相手もいない。沙樹は黙ってカバンを机に置き、教科書を取り出した。その時、教室の入り口から修の声が聞こえてきた。

「おはよう、沙樹！」

突然の挨拶に驚いた沙樹は顔を上げた。教室の中央にいる修が、沙樹に向かって手を振っている。沙樹は周りの視線を感じて、少し照れ臭そうに小さく手を振り返した。教室中が一瞬静まり返り、そして何事もなかったかのようにざわざわと戻った。

沙樹は頬を赤らめながらも、心の中で大きく跳ねる鼓動を抑えきれなかった。修が自分のことをちゃんと覚えてくれている、その事実が嬉しくてたまらなかった。彼との距離がほんの少し縮まった気がして、沙樹の胸は温かさで満たされていった。

昼休み、沙樹は再び図書室に向かった。修がまた来るかもしれないという期待と、逆に来なかったらどうしようという不安が入り混じり、胸が締め付けられるようだった。いつもの席に着いて、沙樹は深呼吸をし、落ち着こうと試みた。しかし、本を開いても文字が全く頭に入ってこない。

ふと、図書室のドアが開く音がして、沙樹は反射的にそちらを見た。そこには修が立っていた。彼は沙樹に気づくと、まっすぐにこちらへ向かって歩いてきた。

「やあ、また会えたね。」修は微笑みながら、沙樹の隣の席に座った。

沙樹は緊張で声が出なかったが、それでも修の隣にいることが不思議と心地よかった。修が話し始めると、沙樹も次第に緊張がほぐれ、自然に笑顔がこぼれた。修は学校での出来事や趣味の話を楽しそうに語り、沙樹はそれに耳を傾けながら、時折自分の考えを伝えた。

「君と話すの、楽しいよ。」修がふと真剣な表情でそう言ったとき、沙樹の心は大きく揺れた。こんな風に、誰かに自分の存在が必要とされることがあるなんて、今まで思ってもみなかった。

「わ、私も……」沙樹はうつむきながら小さく呟いた。「私も、修くんと話すの、楽しい。」

修はその言葉に嬉しそうに笑い、「じゃあ、これからもたくさん話そうね」と言った。その瞬間、沙樹の中で何かが確かに変わった気がした。彼と過ごす時間が、これからもっと増えていく——その期待感が、沙樹の胸を温かく包んだ。

図書室の窓から差し込む陽の光が、二人の間に優しい影を落としていた。その光景は、まるでこれから始まる物語のプロローグのように、穏やかで輝いていた。