未来へ進む三つの絆
第7章:「試練のとき」
日々が穏やかに過ぎていく中で、沙樹はますます修との時間を大切に感じていた。修と一緒に過ごすことで、自分が変わってきているのを実感していたし、それは沙樹にとってとても嬉しいことだった。しかし、そんな中、沙樹には新たな試練が訪れることになる。
ある日の放課後、沙樹が図書室で修を待っていると、突然クラスメイトの美咲が話しかけてきた。美咲はクラスの中で目立つ存在で、いつも自信に満ちていて、皆から好かれている女子だった。沙樹とはあまり接点がなく、美咲が自分に話しかけてくることはめったにないことだった。
「ねえ、沙樹ちゃん。ちょっといい?」
美咲の突然の訪問に驚きながらも、沙樹は少し戸惑いながら頷いた。美咲は沙樹の隣に座り、何か気まずそうに話し始めた。
「修くんと、最近仲がいいよね……実は、私、修くんが好きなんだ。だから、ちょっと話を聞いてもらいたくて……」
その言葉に、沙樹の心は大きく揺れた。修が他の誰かに好かれていることを知って、自分の胸の中で何かがざわめき始めた。美咲は真剣な表情で、自分の気持ちを語り続けた。修のことをどれだけ大切に思っているか、どんな風に彼のことを見ているか——その話を聞くうちに、沙樹の胸の中に押し寄せる不安が大きくなっていくのを感じた。
「沙樹ちゃんも、修くんのこと好きなの?」
突然の質問に、沙樹は言葉を失った。自分の気持ちはまだ確信が持てないままだったけれど、修と一緒にいるときの心の温かさや安心感は、他の誰にも変えられないものだった。しかし、美咲の真剣な眼差しに、沙樹はどう答えたらいいのか分からなかった。
「私……まだ、自分の気持ちがよく分からないの。」
沙樹は正直にそう答えた。美咲は少しだけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに柔らかく微笑んで、「そっか、ありがとうね」と言って立ち上がった。
「私、もう少し頑張ってみるから。沙樹ちゃんも、自分の気持ちを大事にしてね。」
そう言い残して、美咲は図書室を出て行った。その背中を見送りながら、沙樹は心の中で複雑な思いが交錯するのを感じていた。修に対する自分の気持ちは何なのか、本当に好きなのか、それともただ一緒にいて安心するだけなのか——その答えが分からなくなっていた。
やがて修が図書室に入ってきて、沙樹の隣に座った。彼はいつも通りの優しい笑顔を見せ、「ごめん、待たせたね」と言った。その笑顔を見て、沙樹の心は少しだけ軽くなった。しかし、美咲の言葉が頭から離れず、沙樹はどこかぎこちない態度を取ってしまった。
「沙樹、大丈夫?なんか元気ないみたいだけど。」
修が心配そうに尋ねると、沙樹は無理に笑顔を作って「ううん、大丈夫だよ」と返した。しかし、心の中で感じる不安は消えなかった。修のことを大切に思う気持ちは確かにあるけれど、それが恋愛感情なのかどうか、今の沙樹にははっきりと分からなかった。
その日の帰り道、沙樹は修と一緒に歩きながら、自分の中で芽生えた不安や葛藤をどうすればいいのか考えていた。修は何も知らずに沙樹の隣で楽しそうに話をしていて、その姿を見ていると、沙樹はますます自分がどうしたらいいのか分からなくなっていった。
「修くん、ありがとう。いつも私に優しくしてくれて。」
沙樹はふいにそう言って、修の顔を見た。修は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んで「もちろんだよ。沙樹は大切な友達だから」と答えた。その言葉に、沙樹の胸は締め付けられるような痛みを感じた。友達——それは沙樹にとって嬉しい言葉でもあり、同時にどこか切ない言葉でもあった。