〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
episode0.【片翼】
【第一部】
*登場人物*
明智 伶《あけち れい》
…10歳。第一部主人公
明智 舞《あけち まい》
…5歳。伶の妹
明智信彦《あけち のぶひこ》
…40歳。不動産会社 社長
伶と舞の父親
明智京香《あけち きょうか》
…28歳。信彦の後妻
*
埼玉県川口市。人口およそ六十万人のこの街は、荒川を隔てて東京都と隣接するベッドタウンだ。
川口市内の小学校に通う明智伶の家は、JR川口駅からほど近い住宅街にある。
3月22日土曜日。春の日差しが気持ちのいい午後を、伶は妹の舞と一緒に川口駅前のファミレスで暇を持て余していた。
「ねぇねぇお兄ちゃん、こっちとこっち、舞が着るならどっちがいい?」
舞はここに立ち寄る前に本屋で購入した女児向けファッション誌のページを伶に見せて、水色のワンピースと赤色のワンピースを指差した。
伶は携帯型ゲーム機でゲームをしながら、妹が見せてきた雑誌を一瞥する。
『どっちでもいいんじゃない?』
「よくないよぉ! いっちばん可愛くて目立つお洋服にしなさいっていつもママが言ってるもん」
“ママ”の単語に伶の眉が上がる。あんな女はお前の母親じゃない……。何度も口から出かけたその言葉を、炭酸の抜けたコーラと共に飲み込んだ。
明日は“あの女”が舞を連れて東京まで買い物に行くらしい。もちろん伶は一緒には行かない。
あの女にとって舞は、自分の思い通りになる着せ替え人形でしかない。あの女が舞を心の底から愛しているとは伶には到底思えなかった。
「帰ろうよぉ。ここにいるのもうヤダ」
二人がファミレスに入ってから1時間弱。伶の腕時計の針はまだ16時を過ぎたところだ。
『まだダメ』
「なんでぇ?」
『まだ早いんだよ』
何がとは言えなかった。言いたくなかった。それは4月に小学5年生になる伶が抱えるには、あまりにも重すぎるもの。
*登場人物*
明智 伶《あけち れい》
…10歳。第一部主人公
明智 舞《あけち まい》
…5歳。伶の妹
明智信彦《あけち のぶひこ》
…40歳。不動産会社 社長
伶と舞の父親
明智京香《あけち きょうか》
…28歳。信彦の後妻
*
埼玉県川口市。人口およそ六十万人のこの街は、荒川を隔てて東京都と隣接するベッドタウンだ。
川口市内の小学校に通う明智伶の家は、JR川口駅からほど近い住宅街にある。
3月22日土曜日。春の日差しが気持ちのいい午後を、伶は妹の舞と一緒に川口駅前のファミレスで暇を持て余していた。
「ねぇねぇお兄ちゃん、こっちとこっち、舞が着るならどっちがいい?」
舞はここに立ち寄る前に本屋で購入した女児向けファッション誌のページを伶に見せて、水色のワンピースと赤色のワンピースを指差した。
伶は携帯型ゲーム機でゲームをしながら、妹が見せてきた雑誌を一瞥する。
『どっちでもいいんじゃない?』
「よくないよぉ! いっちばん可愛くて目立つお洋服にしなさいっていつもママが言ってるもん」
“ママ”の単語に伶の眉が上がる。あんな女はお前の母親じゃない……。何度も口から出かけたその言葉を、炭酸の抜けたコーラと共に飲み込んだ。
明日は“あの女”が舞を連れて東京まで買い物に行くらしい。もちろん伶は一緒には行かない。
あの女にとって舞は、自分の思い通りになる着せ替え人形でしかない。あの女が舞を心の底から愛しているとは伶には到底思えなかった。
「帰ろうよぉ。ここにいるのもうヤダ」
二人がファミレスに入ってから1時間弱。伶の腕時計の針はまだ16時を過ぎたところだ。
『まだダメ』
「なんでぇ?」
『まだ早いんだよ』
何がとは言えなかった。言いたくなかった。それは4月に小学5年生になる伶が抱えるには、あまりにも重すぎるもの。