〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
 駄々をこねる妹をなだめてその後もファミレスに居座り続けたが、20分が限度だった。

今日は舞が楽しみにしている少女アニメ、フラワープリンセスの放送日。放送時間の17時までに家に帰りたいと懇願する舞に根負けして、伶は重い腰を上げた。

 舞と手を繋いで家路を歩く。伶の通う小学校の前を通り、脇道に入ると見えてきたのは白色の壁に覆われた二階建ての四角い家。

ここが伶と舞の家だ。もっとも、家だと思っているのは舞だけで、伶はここを牢獄だと感じていた。

 玄関の扉を開けた途端に、彼は帰って来たことを後悔した。やはり、まだ早かった。

「……っあ……! ぁあっんっ……!」

二階から女の声が漏れている。普段の生活では聞くことのない、甘ったるくて甲高い声。人間が発情している時の声。

『……舞、こっち』

 伶は舞を抱き抱えて素早く階段を上がり、彼女を自分の部屋に押し込んだ。自室のテレビをつけ、テレビと接続させたヘッドホンを舞につけてやる。

舞は伶の挙動に首を傾げていたが、フラワープリンセスのオープニングが始まると、すぐにアニメの世界に夢中になった。

 あんな汚らわしい人間の声を舞には聞かせたくない。せめてアニメが終わるまでに事が“終われば”いいのだが。

伶はベッドに寝そべって目を閉じた。この部屋にいてもかすかに聞こえてくる女の声が、耳にまとわりついて離れない。
彼は下半身の膨らみを必死で抑えつけた。舞のいる前ではダメだ。絶対に。

 時計の針が17時10分になった頃、ようやく声が静まった。
舞にはフラワープリンセスが終わった後もそのまま17時30分から始まった少年サッカーアニメを観せておいて、伶は飲み物を取りに階下に降りた。

 冷蔵庫から自分と舞の分のジュースの缶を二つ取って二階に上がろうとした時、彼は二階に繋がる螺旋階段を降りてきた人物と鉢合わせした。
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