〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
鈴菜と母親の視線を背中に受けながら、耳に当てたスマートフォン越しに指示を送る。
『裏口を固めておけ。中にいる人間ひとりも逃がすな』
立川南通りを東に進んだ彼は目印とした銀行の角を曲がり、スナックや風俗の雑居ビルが軒を連ねる路地に入った。
洒落た外観の四階建てのビルを見上げる。ガールズバーとゲイバー、中国人パブの看板が掲げられたこのビル全体がレイヴンの持ち物だ。
先に潜入した部下の情報によればターゲットは全員、店舗のある地上ではなく地下にいる。
足音を立てずに地下への階段を降りた彼は素早く黒の革手袋を嵌める。ジャケットの下に隠し持った銃をホルスターから抜き、銃口にサイレンサーを装着した。
剥き出しのコンクリートの地下階段にアルミの扉。洒落た外観に比べてビルの造りは粗朴《そぼく》だ。
一流は中身の質にこだわり、三流は見た目に金をかけて中身には金をかけない。
地下の間取りは頭に入っている。管理室と名がつく部屋の実情は、岸田達が酒と薬と女を楽しむ快楽部屋。
アルミの扉越しに耳を澄ませると数人の笑い声が聞こえた。かすかに女の声も混ざっている。
勢いよく開いたアルミの扉から現れた愁に、最初は誰もが唖然としていた。
日差しの届かない地下に棲息する四人のモグラは、二人の女を侍《はべ》らせて酒を呷《あお》っていた。そのうちのひとりが鋭い眼光で愁を睨み付ける。
『なんだお前? いきなり……』
言い終わらないうちに額から血を噴き出した男の亡骸が床に転がった。
男の隣にいた女の悲鳴が耳につく。金切り声の五月蝿い女を、頭を撃ち抜いて黙らせた直後、ナイフを掴んだ男が愁に突進してきた。
愁の倍は横幅のある男の大きな手に握られると、ナイフも子どものオモチャにしか見えなかった。
軽々と銀色の刃先をかわした愁は男のみぞおちを蹴り飛ばす。腹部を押さえて膝をついた男の顔をさらに蹴り上げ、仰向けに倒れた男のこめかみにまた一発、無情な弾丸が放たれた。
『裏口を固めておけ。中にいる人間ひとりも逃がすな』
立川南通りを東に進んだ彼は目印とした銀行の角を曲がり、スナックや風俗の雑居ビルが軒を連ねる路地に入った。
洒落た外観の四階建てのビルを見上げる。ガールズバーとゲイバー、中国人パブの看板が掲げられたこのビル全体がレイヴンの持ち物だ。
先に潜入した部下の情報によればターゲットは全員、店舗のある地上ではなく地下にいる。
足音を立てずに地下への階段を降りた彼は素早く黒の革手袋を嵌める。ジャケットの下に隠し持った銃をホルスターから抜き、銃口にサイレンサーを装着した。
剥き出しのコンクリートの地下階段にアルミの扉。洒落た外観に比べてビルの造りは粗朴《そぼく》だ。
一流は中身の質にこだわり、三流は見た目に金をかけて中身には金をかけない。
地下の間取りは頭に入っている。管理室と名がつく部屋の実情は、岸田達が酒と薬と女を楽しむ快楽部屋。
アルミの扉越しに耳を澄ませると数人の笑い声が聞こえた。かすかに女の声も混ざっている。
勢いよく開いたアルミの扉から現れた愁に、最初は誰もが唖然としていた。
日差しの届かない地下に棲息する四人のモグラは、二人の女を侍《はべ》らせて酒を呷《あお》っていた。そのうちのひとりが鋭い眼光で愁を睨み付ける。
『なんだお前? いきなり……』
言い終わらないうちに額から血を噴き出した男の亡骸が床に転がった。
男の隣にいた女の悲鳴が耳につく。金切り声の五月蝿い女を、頭を撃ち抜いて黙らせた直後、ナイフを掴んだ男が愁に突進してきた。
愁の倍は横幅のある男の大きな手に握られると、ナイフも子どものオモチャにしか見えなかった。
軽々と銀色の刃先をかわした愁は男のみぞおちを蹴り飛ばす。腹部を押さえて膝をついた男の顔をさらに蹴り上げ、仰向けに倒れた男のこめかみにまた一発、無情な弾丸が放たれた。