〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
父が佳世と再婚したのは3年前。
二人がどこで知り合ったかは知らない。兄の推測では父と佳世の出会いの場はマッチングアプリか婚活パーティーではないかと言っていたけれど、そもそもマッチングアプリや婚活パーティーがどういうものか萌子には知識がなかった。
いずれにしろ父は十六歳も年下の女を妻に迎えた。萌子と佳世の年齢差も十六歳、兄の涼太との差は十二歳。
佳世を母親と思えないのは、年齢差のせいだけではない。
佳世は金遣いが荒い女だった。佳世に心酔する父は、佳世の望む物は何でも買い与えている。二人の子どもへの出資よりも妻への出資を優先する父は、再婚して明らかに変わってしまった。
佳世が来てからこの家はおかしくなった。
子どもをないがしろにして若い妻の言いなりになる父親。
夫の給料を湯水のように使い、父と亡き母がコツコツ貯めてきた萌子達の進学費用まで食い潰す浪費癖のある佳世。
佳世と兄の関係も上手く行っているとは言えず、父と佳世に反発する兄はバイトに明け暮れて、家に帰らない日も多い。
萌子は交通の便と学費の安さを優先して目指していた私立の進学校を諦め、都立の荒川第一高校に進学した。
しかし校風や生徒の気質が萌子には合わず、入学して間もなく孤立した。おまけに一年生で同じクラスだった女子軍団に目を付けられ、イジメの標的にされた。
何の因果か女子軍団のリーダー格の生徒とは二年生でも同じクラスとなり、イジメは今も続いている。
昨日新調したノートも明日には無惨な姿にされているかもしれない。父も佳世も兄も、萌子がイジメられているとは知らない。
父や兄に話せば佳世に知られる。萌子は自分がイジメられていることを佳世に知られたくなかった。
あの女に弱味を握られたくない。父が浪費癖のある佳世と再婚しなければ、そもそも萌子が学費の心配をして都立高校に行く進路はなく、イジメを受ける未来もなかった。
全部あの女のせいなんだ。あの女さえ、いなければ……。
萌子は夫婦の寝室に入った。この家でリビングの次に大きな部屋である主寝室には、母が生存していた頃の家具がそのまま残されている。
彼女はドレッサーに触れた。亡き母が使っていたドレッサーは母が祖母から受け継いだアンティーク品。
それを佳世が平然と使っていることが我慢ならない。どうして父も、母の持ち物を佳世に使わせる?
故人の思い出の品に平気で私物を並べて使用する佳世の無神経さが信じられない。だからあの女は嫌いなのだ。
ドレッサーには萌子には正体がわからない液体やクリームのボトル、派手な色のマニキュアと香水瓶が並んでいる。
母の時代とは様変わりしたドレッサーの引き出しを開けた。
整理整頓されているとは言えない、物で溢れた引き出しの中身は佳世の性格を表していた。想像通りで笑ってしまう。
佳世の持ち物に興味もないが、時々こうして佳世のだらしがなくて粗末な性格を馬鹿にして嘲笑う行為が、小心者の萌子ができる小さな復讐だった。
二人がどこで知り合ったかは知らない。兄の推測では父と佳世の出会いの場はマッチングアプリか婚活パーティーではないかと言っていたけれど、そもそもマッチングアプリや婚活パーティーがどういうものか萌子には知識がなかった。
いずれにしろ父は十六歳も年下の女を妻に迎えた。萌子と佳世の年齢差も十六歳、兄の涼太との差は十二歳。
佳世を母親と思えないのは、年齢差のせいだけではない。
佳世は金遣いが荒い女だった。佳世に心酔する父は、佳世の望む物は何でも買い与えている。二人の子どもへの出資よりも妻への出資を優先する父は、再婚して明らかに変わってしまった。
佳世が来てからこの家はおかしくなった。
子どもをないがしろにして若い妻の言いなりになる父親。
夫の給料を湯水のように使い、父と亡き母がコツコツ貯めてきた萌子達の進学費用まで食い潰す浪費癖のある佳世。
佳世と兄の関係も上手く行っているとは言えず、父と佳世に反発する兄はバイトに明け暮れて、家に帰らない日も多い。
萌子は交通の便と学費の安さを優先して目指していた私立の進学校を諦め、都立の荒川第一高校に進学した。
しかし校風や生徒の気質が萌子には合わず、入学して間もなく孤立した。おまけに一年生で同じクラスだった女子軍団に目を付けられ、イジメの標的にされた。
何の因果か女子軍団のリーダー格の生徒とは二年生でも同じクラスとなり、イジメは今も続いている。
昨日新調したノートも明日には無惨な姿にされているかもしれない。父も佳世も兄も、萌子がイジメられているとは知らない。
父や兄に話せば佳世に知られる。萌子は自分がイジメられていることを佳世に知られたくなかった。
あの女に弱味を握られたくない。父が浪費癖のある佳世と再婚しなければ、そもそも萌子が学費の心配をして都立高校に行く進路はなく、イジメを受ける未来もなかった。
全部あの女のせいなんだ。あの女さえ、いなければ……。
萌子は夫婦の寝室に入った。この家でリビングの次に大きな部屋である主寝室には、母が生存していた頃の家具がそのまま残されている。
彼女はドレッサーに触れた。亡き母が使っていたドレッサーは母が祖母から受け継いだアンティーク品。
それを佳世が平然と使っていることが我慢ならない。どうして父も、母の持ち物を佳世に使わせる?
故人の思い出の品に平気で私物を並べて使用する佳世の無神経さが信じられない。だからあの女は嫌いなのだ。
ドレッサーには萌子には正体がわからない液体やクリームのボトル、派手な色のマニキュアと香水瓶が並んでいる。
母の時代とは様変わりしたドレッサーの引き出しを開けた。
整理整頓されているとは言えない、物で溢れた引き出しの中身は佳世の性格を表していた。想像通りで笑ってしまう。
佳世の持ち物に興味もないが、時々こうして佳世のだらしがなくて粗末な性格を馬鹿にして嘲笑う行為が、小心者の萌子ができる小さな復讐だった。