忍ばせ恋慕   前世でメリバした二人の今世の恋は?

【第一話・只のクラスメート】

一学期最後の日。
本を返しに、図書室を訪れて居た私に、彼が声を掛けて来た。
ほんの些細な一言。

「また二学期に」

それは、いつも無愛想で不機嫌そうな彼からは想像出来ない、静かな笑みと、優しい声色。
驚き、そして、ざわめきが胸をくすぐった。
今となって思えば、その、ちょっとしたくすぐりが、魂に眠る記憶を揺らしてくれた波紋だった様に思う。


*****


陽葵(ヒマリ)咲名(サナ)
前世と同じ字で同じ響きの名前。
憂鬱さを覚えながらも、咲名は白兎(ハクト)高校、2年F組の教室へと入る。
いつも通り、賑やかで騒がしいクラスだ。
男女共に仲が良い。
今日は朝一のホームルームで、学園祭の出し物についての話合いがある。
それもあって、今日は何時にも増してそわそわと落ち着きがない。

咲名が席に着くと、前の席の赤坂(コウサカ)菜穂(ナホ)が咲名へ「おはよう」と声を掛けながら振り返る。
咲名とは、1年の時も同じクラスだったよしみから、話す機会の多い子だ。

「ねぇ知ってる?龍崎君、また告白されたみたいだよ。まぁ案の定、振った様だけど。そもそも、龍崎君には舞が居るしね」
「そうだね」

龍崎(リュウザキ)透夜(トウヤ)
1年の時は別クラスだったが彼の噂は耐えず咲名の耳にも届いていた。
見た目よし、成績も優秀、運動神経抜群。
何処か達観した冷静さを見せる透夜は、今期二学期からは強い推薦を受けて生徒会副会長の座にも付いている。
そんな彼は当然もてる。
彼に恋心を抱く無謀な挑戦者達が後を絶たない。
そんな透夜は、自身の幼なじみの紺野(コンノ)(マイ)と付き合っていると囁かれている。
面倒見が良く、儚げで清楚な落ち着いた雰囲気を纏う舞もまた、憧れの存在として白兎高校では知らない者は居ない。
透夜と舞は、一緒に見掛ける事が多い。
とても絵になる似合の二人だ。

そしてこの二人が、今の咲名を憂鬱にさせている最大の原因でもある。
透夜は、前世の想い人。
舞は、仕えていた主人。
二人もまた、咲名と同じく、名も姿形も前世と同一である。
今の咲名とは、挨拶程度の差し障りないクラスメートと言うだけの関係性。
前世の記憶が戻ったからなのか、感情も当時に影響され、咲名は無意識に二人の所在を探す様になってしまった。
おまけに、やたら二人が光輝いて見える上に、体の体温が気持ちよくポカポカとさせられるものだから、咲名は自分の身の上に起こっている現象に困ってならない。

ーーーー前世の私よ、どれだけ二人の事を好いていたのよ。
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