プラスとマイナスな関係の彼女
とって何かを伝えたかった気持ちが、真子の中で再燃しているのではないかと勝手に期待してしまう。鏡を見つめる彼女のその姿が、私の頭の中に鮮明に浮かび上がり、まるでその瞬間を共有しているような錯覚を覚えるのだ。しかし、そんな淡い希望は次第に現実の冷たさに押しつぶされていく。既読のつかないメッセージ、返事のない電話、そして薄れていく記憶の断片。それでも私は彼女を追いかけた。もはや自分が何を望んでいるのかさえ分からない。ただ、真子と交わした些細な言葉や、彼女の笑顔を思い出すたび、もう一度だけでも話したいと思うのだった。
そんなある日、私は仕事帰りに、偶然真子の愛車とすれ違った。その瞬間、抑えきれない衝動に駆られ、車をUターンさせた。彼女の車が向かった先は、街外れのカフェだった。駐車場に車を停め、店内を覗くと、真子が窓際の席で本を読んでいるのが見えた。胸が高鳴り、足がすくむ。だが、ここで逃げてはいけないと自分に言い聞かせ、意を決してカフェのドアを押した。
「真子さん…?」
驚いた表情で顔を上げた彼女は、一瞬戸惑いながらも笑顔を見せた。その笑顔に、ずっと閉ざされていた扉が少し開いたように感じた。
「偶然だね。ここで何してるの?」
「ただの偶然じゃないよ。君に会いに来たんだ。」
その一言に、真子の表情が少し曇ったように見えた。だが、私はその先を続ける勇気がなかった。ただ、彼女の向かいの席に腰を下ろし、静かにコーヒーを頼んだ。短い会話の中で、真子の近況を知ることができた。彼女は最近、家族の問題で忙しくしており、自分の時間を持てないでいたという。そして、私が何度もメッセージを送っていたことについて、少し申し訳なさそうに謝ってくれた。
「ごめんね。返事しなくちゃって思ってたんだけど、なかなかタイミングが合わなくて。」
その言葉に、私はほんの少しだけ救われたような気がした。真子との会話が続く中で、私はこの瞬間を大切にしようと思った。彼女がまた遠くに行ってしまうかもしれないという恐れがあったからだ。
「また会えますか?」
気がつけば、その問いが口をついて出ていた。真子は少し考える素振りを見せた後、微笑みながらこう答えた。
「うん。また今度ね。」
その日、カフェを出るとき、彼女の後ろ姿を見送りながら、私は自分に誓った。彼女と向き合い続ける勇気を持つことを。たとえこの先、何度も拒絶されることがあったとしても。それが、プラスとマイナスな関係を乗り越えるための第一歩になると信じて。
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