今夜だけのはずが極上の彼に愛されて


はぁ…

もう十分過ぎるほど目立ってしまってる。

紅羽も気まずそうな顔をするも振り返る事なく俺たちは店を出た。

「あと大丈夫だから」

店を出るなり俺から離れようとする紅羽。

「送ってくから」

「いい」

「紅羽」

俺は制するように名前を呼ぶ。
すると俯き黙り込む紅羽。

俺はそのまま紅羽を車に乗せ、シートベルトをつけてやる。

ふわっと紅羽の香りが鼻をかすめ、すぐにでもその艶めかしい唇に喰らい付いてしまいたくなった。

ぐっと堪え車を発進させる。

車内で沈黙が続く。

もう俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。

あの日あの男といる所を見てから俺は行き場のない苛立ちと戦っていた。

諦める事も出来ずに。
冷静にならないとと言い聞かせて。

他の誰かが紅羽を幸せにしてくれるなら…
なんて思える程俺は大人じゃなかった。

嫉妬で勢い任せに問いつめて、傷付けそうで、だから連絡も…

出来なかった。

どんな顔で、どんな風に接したらいいのかわからなくなってしまっていて。

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