今夜だけのはずが極上の彼に愛されて
「ズルい」

「ズルい? 何が?」

「誠ばっかりカッコよくなっていってる」

パンパンとパウダーを八つ当たりするみたいに顔にはたく私を見て誠は笑う。

「何言ってんだか。わかってないな紅羽ちゃんは」

誠はまた私のところまで来ると、後ろに立って抱きしめ鏡越しに微笑む。

そして目を伏せて私のこめかみにキスを落とした。

その姿が鏡に映って、映画から出てきた俳優みたいに見えた。

そしてこめかみから耳へと移るキス。

「紅羽もずっとずっと綺麗になった」

そう言って耳元で囁かれかじられる。
一部始終が見えてゾクゾクと背筋に電撃が走る。

このバリトンボイスに甘い囁き。

「もう抱きたい」

私はついに持っていたパフを手から落としてしまう。

それをクスッと笑って拾う誠。
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