執拗に愛されて、愛して
仕事に復帰すると、周りに歓迎されながらそのまま昇格の話も進んだ。

帰ってきて支社とは少し違う仕事のやり方に苦労したもののすぐに戻すことは出来た。

支社の和気藹々とした感じとは違って、本社は殺伐というわけでもないが

どこか冷めた様子でみんな仕事している。

これが前までは普通だったから慣れなくちゃ。

また残業付けの毎日が始まる。


「よ、朝比奈」


声をかけられて視線を上にやると、佐久間くんがいた。

随分久しぶりで「久しぶり」と笑顔で返事をすると、佐久間くんも何も変わらない笑顔で「久しぶり」と返してくれる。


「本当に帰ってきてたんだな」

「うん、数少ない同期だから残ってくれてて良かった。またよろしくね」


そう声を掛けると佐久間くんは少し笑ってうんと頷く。


「今晩俺の奢りで飯でも行かない?お帰り会的な」


そう言われて「あー」と声を漏らす。

佐久間くんとはこれから仕事で大きく関わるだろうし親交は深めておきたい。

だけど、雅は絶対嫌がるだろうな。

そう思ったらうんとは簡単に言えない。


「…昼にまた返事でも良い?」

「何、彼氏とまだ続いてんの?あの独占欲丸出しな」

「もうその話忘れて」


マンションまで迎えに来てくれた佐久間くんの目の前でキスをしてきたことのある雅の話をまだ覚えていたんだと思う。

そりゃあんなインパクトのある所を見せつけたら忘れないよね。

それにあの時の帰り、私佐久間くんに狙ってた宣言されたんだっけ。

思い出したら余計ダメな気がしてきた。
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