続きは甘く優しいキスで
梨都子はにやにやしながら、私の手の届かない高さまで名刺を高く掲げた。

「この手書きの番号って、この人のだよね?よく見たら、碧ちゃんと同じ会社の人なのね。いつもらったの?電話はかけてみた?」

私は梨都子の手から名刺を奪い返すことを諦めて、肩で息をついた。

「かけてません」

梨都子の目が見開かれた。

「どうして?嫌いな人なの?」

梨都子の勢いに、私はたじたじとなった。

「別に嫌いってわけじゃないけど……」

「それなら、とりあえず連絡だけでもしてみればいいのに。それでさ、会って話してみたら、何かが変わるかもしれないでしょ?そうだ。一対一で会うのが不安なら、ここに連れてくればいいわ。私がじっくりと見定めてあげる」

「そういうのはいいですって……」

これは酔ってるな……。

私はカウンター向こうの池上に目で助けを求めた。

池上は「悪いな」と謝る仕草を私に見せてから、梨都子をたしなめる。

「梨都子、碧ちゃんが困ってる。いい加減にしないと嫌われるぜ。その名刺も早く碧ちゃんに返しなさい」

梨都子はぷうっと頬を膨らませながら、渋々名刺を私に返した。

「だってさぁ。碧ちゃんが幸せになるきっかけになるかもしれないでしょ?だったら、何か協力したいなって思ったんだもん」

池上は呆れたようにため息をついた。

「そういうのは、頼まれてからでもいいだろ。それまでは口出ししないで見守っていればいいんじゃないのか。碧ちゃん、ごめんな。梨都子はさ、碧ちゃんのことを妹みたいに思ってて、心配してるだけなんだ」
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