続きは甘く優しいキスで

13.狂気の色

バーを出てエレベーターに乗り込んだ私たちは、ただ黙ってロビーに着くのを待っていた。

先ほどまでの会話を思い出し、胸の高まりがおさまらなくなっていると、拓真がぼそっと言った。

「そう言えばさ」

「な、何?」

「ひとまず答えは保留だけど、碧ちゃんは太田さんと別れたら、俺と付き合ってくれるってことでいいんだよね?」

「う、うん。そうしたいと思ってるよ」

「でさ、その前に俺、碧ちゃんの気持ち、ちゃんと聞いていなかったなって思ったんだよね」

拓真はちらりと私を横目で見る。

「私の気持ち……?」

「そう。付き合う気持ちがあるってことは、そういうことなんだろうなって思うけど、でも」

拓真は私の頬にそっと触れた。

「ちゃんと聞きたい。言ってほしい」

「あ……」

拓真の目を見返して、彼がほしがっている言葉が何か気づいた。言われてみれば、今の気持ちを話してほしいと促されて話しはしたが、最も大切な言葉を明確に拓真に伝えていない。改めて口にしようとすると恥ずかしくなるが、でもこれは言わなければいけない言葉だ。私は声を振り絞るようにして言った。

「好きです、今も……」

言い終えた途端に顔が熱くなった。

「あぁ、もうっ……」

拓真が脱力したようにつぶやくのが聞こえた。

「拓真君……?」

「今はまだ、碧ちゃんが俺の彼女じゃないことが本当に悔しいよ」

「え?」

「彼女だったら今すぐにもキスしたいのに、ってことだよ」

拓真はそう言って熱っぽい目を私に向ける。

そうされたら嬉しいけれど、それはまだ――。

どきどきしながらそう思った時、エレベーターが到着を知らせる。

拓真は照れながら、私を促した。

「せめてアパートの前までタクシーで送らせて」
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