続きは甘く優しいキスで
重苦しい気分のままエレベーターに乗り、目的の階に出た。自分の部屋の前を見て、どきりとした。玄関前に太田がしゃがみこんでいたのだ。

―― 今日は来ないはずじゃ……。

驚き狼狽しながら私は歩を進めた。私が目の前にやってきたのを見て、太田が立ち上がる。その顔に浮かぶ笑顔を見て、背中がひやりとした。

「笹本、お帰り。遅かったじゃないか。何度かメッセ―ジと電話入れたんだけど、気づかなかったか?」

「え?」

私は慌ててバッグに手を突っ込み、携帯を取り出した。ロックを外して通知を見るとそこには太田の名前がずらりと並んでいた。どくどくと鼓動が鈍く跳ねて息苦しくなり、胸元を抑えた。しかし顔には笑みを乗せる。

「友達と盛り上がっちゃって……。だいぶ待ってました?ごめんなさい」

「へぇ、友達と会ってたのか」

太田が一歩近づいた。

「う、うん、そうなんです。急に誘われて。久しぶりに会う子だったから、それで」

太田の声に足が震えそうになるのをなだめつつ、私は鍵を取り出した。

「今日はちょっとはしゃぎすぎちゃった。疲れたから、もう寝ますね。太田さんは出張帰りですよね?申し訳ないですけど今夜は自分のお部屋に……。っ……!」

全て言い切ることができなかった。

太田は私の手から鍵を取り上げた。それを取り返そうと手を伸ばした私の体を捉えて、鍵を開ける。そのまま私を押し込むようにして玄関に入り、後手でドアを閉めて鍵をかけた。

「友達と会ってたなんて、嘘だろ。見え透いてるんだよ」

怒気をはらんだような太田の低い声に全身が震える。

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