続きは甘く優しいキスで
太田――。

その名前にどきりとしたが、私は平静を装う。

「はい。今じゃ中堅どころという感じみたいですよ」

ハンドルを握りながら、時田はやっぱりなと納得したように頷く。

「あいつは前職が会計事務所だからな。下手すると俺より詳しいところがあったもんだ。周りともうまくやっていけるタイプみたいだったし、このまま頑張っていれば、いずれは役職にでもつけるんじゃないの?」

それには答えずに、私は乾いた愛想笑いをし、話題を変えようと頭を巡らせる。

「そう言えば、支社長。今回は事務の方に色々教えてほしいってことでしたけど、総務関係のことだけでいいんですよね?経理関係は支社長が詳しいわけですし……。それと今回は北川さんも一緒にということでしたけど、具体的には私たち、何をすればいいんでしょうか?」

「うん。それは着いてからゆっくり打ち合わせようか」

「あ、そうですよね」

車での移動中に話すことではなかったかと、慌てて口をつぐむ。

「笹本さんは相変わらず、ほんと、まじめだな。いや、そこがいい所の一つではあるけどね。ま、今回はさ、ここだけの話、息抜きに来たつもりで気楽に頼むよ。お、その前にホテルに荷物預けておくか?夜は飲み会だし。二人ともその方が楽でいいんじゃないか?」

移動があるなら、確かに荷物は少ない方がいい。

「じゃあそうします」

「二人とも昼飯はまだなんだろ?まずはホテルに寄って荷物を預けたら、そのまま飯に行こう。うまい店に連れて行ってやる」

「わぁ、楽しみです」

私の喜ぶ声に時田はにかっと笑い、ハンドルを切った。

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