続きは甘く優しいキスで
清水も「リッコ」の常連だ。池上夫妻とは昔からの知り合いらしい。何度かここに足を運んでいるうちに私も彼と親しくなり、今では仲のいい飲み友達だ。

お絞りで手をふきながら、清水はにこにこと梨都子に笑いかけた。

「今日はツイてるなぁ。碧ちゃんだけじゃなくて、梨都子さんにも会えるなんて」

梨都子はふふんと鼻で笑う。

「相変わらず調子がいいわねぇ」

「いやいや、本心ですって。ほんと、いつ見てもお綺麗で。目の保養になります」

「本心ねぇ。どうだか……」

ぶつぶつ言いながらも、梨都子はまんざらでもない顔をしている。

「二人とも今日は仕事だったんだよね?お疲れ様ってことで、乾杯しようよ。池上さんも、そろそろ飲んじゃっていいんじゃない?見れば常連さんたちしか残っていないみたいだし。――ねっ、皆さん。池上さんも、もうお酒飲んじゃって構いませんよね?」

清水はくるりと体の向きを変えて、テーブル席の数人に向かって声をかけた。

「どうぞどうぞ!」

「マスター、ごちそうするよ」

返って来た陽気な声に、清水はにっと笑った。

「……だってさ」

彼の笑顔を受けて、池上は嬉しそうな顔をした。

「それじゃあ、お言葉に甘えて、一杯だけ飲んじゃおうかな」

池上はいそいそと出してきたグラスをビールで満たす。

「それでは、改めて乾杯!」

清水の音頭を合図に、それぞれがその場でグラスを高く掲げた。

梨都子の口調が怪しくなり始めたのは、それから間もなくだった。

「だから……碧ちゃんはさ、もうちょっとガード緩くした方がいいって……」
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