続きは甘く優しいキスで
ぞろぞろと支社の面々と一緒に店を出たところで、時田が私と拓真に訊ねる。

「ここからホテルまでは歩いて十五分くらいだけど、場所覚えてるか?途中まで一緒に行った方がいいか?」

拓真は丁寧に時田の申し出を断る。

「いえ、ちゃんと覚えてますので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「そうか。じゃあ、また明日な」

「はい。お疲れ様でした」

私は拓真と並んで、帰って行く皆んなを見送った。彼らの姿が見えなくなってから、ふうっと息をつく。

「楽しかったけど、なかなか疲れるね。出張って」

「まぁね。でも、来て良かったよ。時田支社長っていい人だよね」

「そうよ。私、経理の時ずいぶんとお世話になったんだ。仕事はシビアだったけどね。さて、私たちも帰りましょうか。ホテルって、あっちの方だったよね」

そう言って歩き出した私を、拓真は引き留めた。

「待って、そっちじゃないよ。こっち」

「え。あれ?」

「碧ちゃんって、方向音痴だったっけ?」

くすくすと笑う拓真に、私は唇を尖らせて言い訳する。

「初めての街だし、お酒も入ってるから、ちょっと間違えただけだもん」

「だもん、って……」

拓真がぷっと吹き出した。

「碧ちゃん、いくらなんでも気を抜きすぎでしょ。もしかしたら、まだその辺に支社の人がいるかもしれないのに」

拓真に言われて私は焦る。

「そ、そうだよね。ごめんなさい。やだなぁ、そんなに飲んでいないはずなんだけど」

「疲れてるんだろ。とりあえずホテルに向かおう」

そう言って、拓真が私の手に触れる。

「拓真君、ちょっと、この手……」

どぎまぎして拓真から離れようとしたが、それよりも早く彼の手が私の手を握った。

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