続きは甘く優しいキスで
だけど、帰ってからは――?

宣言するように別れの意思を伝えはしたが、結局は彼とは平行線のままだ。この前のように、待ち伏せでもして部屋までやって来ることが容易に想像できた。その時に彼をうまくかわせる自信はない。もしもこの前以上にひどいことをされたら?男の人の力には到底かなわないのだ。私はごくりと生唾を飲み込み、震える手で携帯を取り上げた。

「もしもし……?」

電話に出なかった理由を冷えた声で追及されるかと思ったが、案に相違して、太田の声は恐いくらいに優しかった。

―― あぁ、笹本。やっと電話に出た。何かあったのかと思って心配だったんだ。

張り付きそうになる声を励ましながら、私は言う。

「私、別れると言ったはずですけど……」

―― 俺はうんとは言っていないよ。

太田はやけに優しい声で言う。

その声に恐怖心を煽られる。

―― 明日の夜に戻って来るんだったよな。

「えぇ、でも会いませんから……」

私は携帯をぎゅっと握りしめながら。固い声で言った。

すると、ひと呼吸ほどの間があった後、太田はため息まじりに言う。

―― 本気なのか?でも俺は別れるつもりはない。

「何度も言ったように、私はもう、太田さんとは付き合えません」

どうしたら分かってもらえるんだろうと、苦しい声で言う私に、太田は探るように訊いてきた。

―― なぁ、北川と何かあった?

「何もありませんよ。仕事で来てるんですから」

私は即座に否定した。新幹線の中でのことや、懇親会後に手をつないでホテルまで歩いたこと、ますます拓真に心を寄せるようになっていること……。それらが「何かあった」ということになるのなら、余計に太田になど言うわけがない。

―― ふぅん……。

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