続きは甘く優しいキスで
そうしてしまう前に早く、このドアを開けて自分の部屋へ戻らなければと思う。それなのに足が動かない。息を詰めてうつむいていると、拓真が私の方までやって来た。

「それなら、このまま寝るのもつまらないから、少しだけ俺の話し相手をしてってよ。ペットボトルのお茶だけど、今用意するから。それを飲み切るまでの間だけでもいいから。だめかな?」

背後で聞こえる拓真の声が心地よくて、もう少しだけこの声を耳にしていたいと思った。少なくともその間は、太田のことを忘れていられる。

「……分かった。じゃあ、少しだけ」

「ありがとう。こっちに座って」

拓真に手を引かれて、私は部屋の奥に足を踏み入れた。彼に促されるがままにベッドに腰を下ろす。

「ちょっと待ってて。あと、これ、羽織り物代わりに」

拓真はそう言うと、持参してきていたらしいトレーナーを私に渡してよこした。それから冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出す。

私は彼のトレーナーを首回りまで寄せるようにして背中に羽織った。その時ふと鼻先をかすめる匂いに気づく。

拓真君の匂いかしら……。

どきどきしながら待っていると、お茶を入れたグラスが私の目の前に差し出された。

「どうぞ」

「ありがとう」

受け取ったグラスに口をつけて、一口二口お茶で喉を湿らせた。その後ベッド脇のサイドテーブルにグラスを置く。

視線を感じて顔を上げればそこには、私を見守る拓真の目があった。騒がしくなる鼓動を落ち着かせたくて、もう一口お茶を飲もうとグラスに手を伸ばした。ところが目測を誤って手が滑った。グラスを守ろうとしたが完全には間に合わず、こぼれたお茶が私の膝から下を濡らした。

< 127 / 222 >

この作品をシェア

pagetop