続きは甘く優しいキスで
池上は眉をひそめて梨都子の前に水を置く。

「梨都子、もう帰りな。タクシー呼ぶから」

「それなら、私、一緒に乗っていきます。住所だけ教えてもらえれば」

「だったら、俺も一緒に帰るよ。池上さんの家は知ってるからさ」

「大丈夫よぉ。一人で帰れるって」

梨都子は楽しそうに、あははと笑う。

「まったく……」

池上は呆れながらも心配そうな顔で梨都子をちらりと見て、私と清水に申し訳なさそうな顔を向けた。

「それじゃあ、悪いんだけど、一緒に帰ってもらってもいいかな?俺は店の片づけが残ってるから……。しかし、梨都子がこんな風に酔っぱらうことって、珍しいんだけどな。いよいよ年なのかね」

「ちょっとぉ、年とは聞き捨てならないわね」

「あ、聞こえてた?」

池上は梨都子の文句を軽く流す。

二人のやり取りに笑いたくなるのを我慢して、私は酔っぱらい状態の梨都子をまじまじと見た。

「でも、私もこんな梨都子さんを見るのは初めてかも」

「俺も。これはなかなか貴重だな。今度会った時のネタにもなる」

清水は愉快そうに笑っている。

「やれやれだな」

池上は苦笑いしながら、電話を手にした。

「タクシー呼ぶよ」

そう言って池上が電話をかけてから十数分後、タクシードライバーが私たちを店まで呼びに来た。

「今行きます。……碧ちゃん、梨都子さん、行くよ」

私たちを促して席を立つ清水を、池上が引き留める。

「これでタクシー代払ってくれ。もしも足りなかったら後で教えて」
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