続きは甘く優しいキスで
「碧ちゃん、もう俺の所においで」

「……でも、ちゃんと別れないと、拓真君に迷惑をかけることになる」

「迷惑ってどんな?」

「どんな、って……。きっと拓真君にも嫌な思いをさせてしまうと思う……」

拓真が柔らかく微笑んだ。

「自分のことじゃなくて、俺のことを心配してくれるの?ありがとう。だけど今は自分のことだけ考えて。俺はこれ以上あの人のせいで、碧ちゃんが傷つくのを見たくない。俺が守るから、逃げて来てほしい」

「でもそんなのは、拓真君から逃げたあの昔と同じになってしまう。それに、逃げたって何の解決にもならないと思うし……」

「もしかして昔のことが頭にあるから、別れ話をしなきゃ、別れるって言ってもらわなきゃ、って思ってるの?」

拓真の問いに私は少しだけ考え、それから無言で頷いた。

「だけど、今回のことは俺の時とは事情が全然違う。こんなに傷ついてる君を、このまま黙って見ていられるわけがないだろう」

拓真の声の真剣な響きに私は目を上げた。彼の瞳にぶつかって、諾と頷きそうになった。けれどそれを止めるのは、実際に逃げることなど無理だろうという思い。

「私が別れるって言っても彼は頷かなかった。別れるつもりはないって言った。会社ではどうしたって顔を合わせることになる。仕事で絡むことだってある。私の部屋ももちろん知ってる。それに、待ち伏せまでして私のことを待ってるような人なのよ……」

言っているうちに、声が震え出す。

拓真は私を落ち着かせるように背を撫でてくれる。

「大丈夫。何か方法を考えよう。彼から離れるための、差し当たっての問題は部屋かな……」

つぶやくように言ってから、拓真は私の顔をのぞき込んだ。

「俺の部屋に来ない?」

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