続きは甘く優しいキスで
「それじゃあ、適当になんか出すね。ちょっと待ってて」

そう言って池上がカウンターの奥に引っ込んだのを見て、拓真は私を促し窓際のテーブル席へ足を向けた。それから当然のように、私の隣の席に腰を落ち着けた。

新幹線の中で手をつなぎ合っていた余韻か、彼と肩が軽く触れ合っただけでもどきどきする。

不思議そうに拓真が首を傾げた。

「どうかした?」

「あの、ちょっとだけ椅子、ずらしてもらえないかな」

「なんで?」

「だって、狭いから……」

すると拓真はにっと笑い、テーブルに肘をついて私の顔をのぞき込んだ。

「こんなもんでしょ?それに、夕べは一緒にくっついて寝たじゃないか。新幹線の中でだって……」

絶対に分かって言ってる――。

「だ、だからよ。緊張するの」

「今さらなのにな」

拓真は苦笑して椅子の位置をずらす。しかしよく見れば、たいして離れたわけでもない。

「拓真君、もうちょっとそっちに……」

「これくらいで我慢して?」

拓真の笑顔に、これ以上離れてもらうことを諦める。これ以上鼓動がうるさくならないように、クールダウンのつもりで窓の外を眺めていると、池上が料理などを運んできた。

「さっき聞き忘れた。飲み物はどうする?」

私は迷わずウーロン茶を注文した。この後に梨都子へのお願いが控えているし、お酒を飲みたいような気分でもなかった。

「俺もウーロン茶で」

「え?拓真君は飲んでもいいのよ」

「今日はそんな場合じゃないでしょ」

「別に少しくらい……」

「気にしなくていいって」

「でも……」

そんなことを言い合っていると、池上の声が割り込むように降ってきた。
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