続きは甘く優しいキスで
「碧ちゃん、お待たせ!あら?一緒に来るって書いてあったの、男の人だったのね」

梨都子は驚いたように目を見開いて拓真に視線を向けた。

拓真は早速立ち上がり、梨都子に向かって丁寧に頭を下げる。

「はじめまして。北川拓真と言います。昔、池上さんが働いていた店に、よくお邪魔していまして」

「あら、そうなのね。こちらこそはじめまして。池上の妻の梨都子です。碧ちゃんの姉代わりのつもりでいるわ。よろしくね」

拓真たちが簡単に自己紹介をしているところに、池上がやって来た。手には梨都子の分のワイングラスと取り皿などを乗せたトレイを持っている。それらをテーブルの上に並べながら、彼は梨都子に説明する。

「ここを始める前に働いていた店に、よく来てくれていた常連さんなんだよ。この前何年かぶりに顔を出してくれてさ。聞けば今は碧ちゃんの同僚なんだってさ。それと、学生時代の恋人で、またつき合い出したんだっけ?いや、まだ?」

池上が言った最後の言葉の曖昧さに梨都子は首を傾げ、私たちの顔を交互に見る。

「職場で偶然再会したっていうこと?それで今はなんですって?あれ?だけど碧ちゃんって、確か付き合ってる人がいたはずよね?会社の人だっけ?その人とは別れて付き合い出したってことなの?ん?でも、今真人が言った『まだ』っていうのが気になるわね」

私は拓真と顔を見合わせ、それから居住まいを正した。本題に入るタイミングのようだ。

「実は泊めてほしいっていうのは、それと関係があってですね……」

固い声で切り出した私の様子に、梨都子は真顔になった。

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