続きは甘く優しいキスで
梨都子は唸った。

「まさかこれまでも他に何か……。例えば殴られたり、とか」

重ねて訊ねられ、私はためらいながら答えた。

「……殴られたことはないけど、噛まれたりとか」

「噛む?」

意味が分からないというように、梨都子と清水が顔を見合わせた。

私は拓真の手から離れ、彼と目を合わせてから、無言でブラウスの片方の袖を肩までまくり上げた。もしもその話題になった時には、実際に見てもらった方が信じてもらえるだろうと、実は拓真と話し合って決めていたことだった。

私は二の腕を二人に見せた。そこにはまだはっきりと噛み痕がいくつも残っている。少し日が経ったために薄れかけて、ただのあざに見えるものもある。

あまり動じるイメージのない二人だったが、梨都子と清水は明らかに狼狽えていた。すでに目にしている拓真でさえも顔を歪めているが、その痕を初めて見た二人は声をも失っていた。

「こういうのが、体中にあって……」

恥ずかしいのを我慢して、私は小声で言った。

生々しい痕を目にして、ようやく口を開いた清水の声には怒りがにじんでいた。

「……歯型がくっきり残る程ってどんだけだよ」

「まったく、その男、信じられない」

梨都子は声を震わせながら私の腕を撫でた。

「痛かったよね」

私は袖を元に戻しながらこくんと頷き、二人に信じてもらえたことにほっとしていた。

梨都子はキリリと表情を改めると、力強く言った。

「今夜だけと言わず、事態が良くなるまで好きなだけうちにいていいからね。かと言って……」
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