続きは甘く優しいキスで
梨都子が考え込む。

「碧ちゃんの方はもう別れたと言っていても、相手の男は別れるつもりがない、別れたと思っていないなら、安心できないよね」

「厄介だよな」

清水が不快そうに鼻の頭にしわを寄せる。

「そう言えばさ」

と、何かを思い出したように口を開いた。

「ここで梨都子さんと三人で飲んだ日、俺が碧ちゃんをタクシーで部屋まで送って行ったことがあっただろ?ほら、彼氏のことを不審者かもなんて思った日だよ。あの時、街灯の灯りの下ではあったけど、あの人のこと、どこかで見たことがあるって思ったんだよね」

「そうなんですか?」

驚いて目を瞬かせる私に清水は訊ねた。

「彼の前職、何だったか知ってる?」

私は記憶をたどった。

「えぇと、会計事務所だったと思う。なんていう名前の所だったかな……。大江会計事務所、とか言ったかしら。彼、うちの会社に来る前は隣県のS市で働いてたはずです」

すると清水は腕を組み、合点がいったような顔でつぶやいた。

「なるほどね……」

梨都子が身を乗り出し、清水の顔を横から覗き込む。

「史也君、何か知ってるの?」

「知ってるっていうか、前職を聞いて記憶が刺激されたというか。で、今つながったな、と」

「それで?」

梨都子が焦れたように先を促す。

清水は窓の外に目をやると、ゆっくりと話し出した。

「恐らく、当時俺が付き合ってた彼女の友達の、彼氏だった男だと思うんだ。四年くらい前だったかな。一緒に飲んだことがあってね。たいした話もしなかったからだろうな、今まですっかり忘れていたよ」

清水は私たちに視線を戻し、肩をすくめてみせた。
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