続きは甘く優しいキスで
足元をややふらつかせながらも、梨都子が確かに玄関のドアを開けて家の中に入ったことを見届けて、私たちは待たせていたタクシーに乗り込んだ。今度は二人して後部座席に乗る。

「さて。次は碧ちゃんね。矢本町だっけ?」

「はい」

「ドライバーさん、次は矢本町にお願いします」

「矢本町ですね」

ドライバーは確認するように繰り返してから、車を発進させた。

車に揺られながらふと思う。

「梨都子さんが家に着いたこと、連絡しておいた方がいいですよね」

「そうだな。池上さん、きっと心配してるだろうからな」

清水が携帯を取り出そうとするのを止めて、私はバッグに手を入れた。

「私、かけますよ」

店の方に電話をかけると、池上はすぐに出た。

「梨都子さん、ちゃんと家に帰りましたよ」

―― 悪かったね。ありがとう。少し前に梨都子からも電話があったよ。今度お詫びとお礼ということでご馳走させて、だってさ。

「その時は遠慮なく、清水さんと一緒にご馳走になります」

―― 史也は?

「一緒にいます。次は、私を送ってくれるそうです」

―― そっか。ありがとうって言っておいてくれる?

「はい。伝えておきますね」

電話を切って携帯カバーを閉じた時、清水が私に何かを差し出した。

「これ、落ちたよ」

目を凝らして、それが太田の名刺だと気づいて慌てた。電話をするためにカバーを開けた時に、またしてもケースの中から落ちてしまったようだ。清水にからかわれると思い、私は身構えた。

けれど清水は、至って普通の調子で私に訊ねた。
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