続きは甘く優しいキスで

18.腕の中で

タクシーに揺られながら、私は拓真の隣で緊張していた。昨夜も、行き帰りの新幹線でも二人きりではあったけれど、今の緊張はそれらともどこか違っていた。その昔だって何度も彼の部屋を訪ねはしたけれど、泊まったことはなく、必ず自分の部屋へと帰っていた。それが再びつき合い出した途端に泊まることになるなんてと、理由があるにしても心の準備がまだ整わない。何度も「けじめ」という言葉を口にしていたのには、そんな理由もあった。

私はちらりと拓真を横目で見た。

何か思いでも巡らせているのか、はたまた睡魔にでも襲われかけてでもいるのか、タクシードライバーに行く先を告げたきり、彼はずっと黙ったままだった。

この沈黙が嫌だというわけではないけれど、車の走行音しか聞こえない状況の中では、自分の鼓動の音ばかりが耳の奥で大きく響いて落ち着かない。

何か話さなければと思うが思いつかず、結局こんなことを口にしてしまった。

「拓真君、ごめんね。やっぱり明日になったら、どこかのホテルに行くから……」

すると、拓真の手が私の手をぎゅっと握った。

「全然ごめんじゃないよ。むしろ、ずっといてほしい」

ずっと――?

トクンと胸の奥で小さな音が鳴る。どう返すべきか迷っていると、タクシーのスピードが緩やかになった。

「もうすぐ着くよ。降りる準備をしようか」

「うん」

道路脇に停車したタクシーからまず自分が降り、続いて私が降りたのを確かめて、拓真が言った。

「行こうか」

「えっ、ここなの?」

目を上げて驚いた。立派な建物だ。

私の分の荷物も持ちながら、その建物のエントランスに向かう彼の後を、私は慌てて追った。
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