続きは甘く優しいキスで
こちらに戻って来た時に改めて住むことになった部屋なのだろうが、賃貸には見えなかった。学生の時もいい所に住んでいるなと思ったが、ここはその比ではない。

私の困惑に気づいた様子もなく、拓真はオートロックを解除して中に入る。そのまま先に立ってエレベーターに乗り込んだ。

「ここ、賃貸じゃないんだね」

「まぁ、そうだね」

拓真は私の戸惑いを軽く流し、目的の階でエレベーターを降りる。八階だ。少し進んだ所にある一つの部屋の前で足を止め、ドアを開けた。

「どうぞ」

彼に促されるまま、緊張しながら玄関に足を踏み入れた。

「部屋は散らかってるから、できれば隅々までは見ないでもらえると助かるかな」

照れ臭そうに言いながら、拓真は私の足下にスリッパを置いた。

「奥にどうぞ」

「お邪魔します」

拓真が廊下の突き当りのドアを開けた。

「荷物はひとまずリビングに置いておこうか。まずは風呂だね。今準備するから、適当に寛いでて」

帰宅したばかりの拓真を、あれこれ動き回らせていることに申し訳なくなる。

「私、シャワーで十分だよ」

しかし彼は何でもないような顔をしてさらりと答える。

「でも、お湯につかった方が疲れが取れるよ。どうせ俺も入るんだから、気にしないで」

拓真はにっと笑って、バスルームと思われる方へと消えていった。

私は彼に示されたリビングへ足を踏み入れた。散らかっているなどと言っていたがそんなことはなく、すっきりと片付いていた。そのせいもあってかやけに広々と感じて、どうにも落ち着かない。

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