続きは甘く優しいキスで
座り心地が良さそうな大きなソファがあったけれど、そこに腰を下ろすのも気が引けて、私は敷かれてあったラグの上に座った。そこで旅行用カバンを開き、パジャマや余分に入れておいた下着やらを取り出す。

さすがに少し疲れたかな――。

ふうっとため息をついた時、バッグの中でマナーモードにしてあった携帯が震えた。

まさか、太田さん……?

みぞおちの辺りがすくみ上った。

震える手でバッグの中から携帯を取り出した。見ればやはり太田の名前が出ている。そのままじっとしていると、諦めたように携帯は静かになった。改めて恐る恐る画面に目を落とすと、太田から着信とメッセージがあったことを知らせる表示が出ていた。

もしかしてその中に、別れを受け入れてくれるような言葉が入っていたりはしないかと、一瞬だけ自分に都合のいいように考えかけた。しかし、通知を開いて知った件数の多さに背筋の辺りがぞわりとする。

「お待たせ。お風呂の準備ができたよ。……碧ちゃん?」

リビングに戻ってきた拓真は青ざめた顔の私に気づき、慌てて傍にやって来て膝をつく。

「大丈夫?まさか、あの人から電話でもあったのか?」

私は力なく拓真を見上げた。

「電話はあったけど、出なかったよ。留守電にしてたし。ただ、着信とかメッセージがたくさん入っていて、その件数があまりにも多くて、それで怖くなってしまって……。ごめんなさい、心配かけて」

「震えてる」

拓真の手が私の肩を優しく撫でた。

「すぐには難しいかもしれないけど、きっとなんとかするから。大丈夫だよ」

「ごめんね。こんな風に巻き込んでしまって……」

私はスカートを握りしめた。

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