続きは甘く優しいキスで
「ちゃんと自分で決着をつけてから、拓真君の気持ちに応えるつもりだったのに……。彼がこんなに私と別れることを拒むだなんて、思ってもいなかった」

「好きな人を離したくないっていう気持ちは、分からないでもないけどね。ただ、あの人の場合は度が過ぎてる。大事にすべき人を傷つけたり、必要以上に束縛するのは絶対に違う。それから、前にも言ったと思うけど、俺は巻き込まれたなんて思っていない。このことは、碧ちゃんがまた俺の恋人になってくれるっていう幸運に対する、ある種の試練みたいなものだと思ってる」

拓真は私の手を取って促す。

「とにかく、お風呂でゆっくりあったまっておいで。そうすれば、いくらかは気持ちも落ち着くだろう。タオルなんかは風呂場の籠に用意してあるから、適当に使って。シャンプーとかは大丈夫?」

「うん。出張用のがあるから。何から何までありがとう」

私はぎこちない笑顔を作り、彼の手につかまって立ち上がった。彼の優しさと穏やかな声に心が少し解けた気がした。

「お風呂、お借りします」

私は着替え一式を抱え、拓真に教えられたバスルームへ向かった。

やや長めの入浴を終えてリビングに戻ると、タイミングを見計らっていたのか、彼がローテーブルの上にティーカップを二つ置いた。暖かそうな湯気と嗅いだことのある香りが流れてくる。

「これはハーブティー?」

「夜だからノンカフェインの方がいいかと思ってね」

「拓真君もハーブティ、飲むんだね」

「これは昔、碧ちゃんに教えてもらったお茶だよ。初めて飲んだ時、美味しいと思った。それからは、寒い季節なんかによく飲むようになったんだ」

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