続きは甘く優しいキスで
「誰の名刺?」

「えぇと、会社の同僚の……」

「裏に電話番号が書いてあったね」

「あぁ、それは……」

私は口ごもりながら、清水の手からその名刺を受け取る。

「付き合ってほしいって言われて。それで、もらったんです」

「ふぅん。電話しないの?」

「今迷ってるところで……」

「どうして?嫌いな人なの?」

「嫌いじゃないんですけど……」

返事に困って目を泳がせたタイミングで、タクシーが止まった。

「なんだ、残念。もう着いたのか。この話、もう少し聞いてみたかったのにな。近いうちに、またリッコで飲もうぜ」

「……そうですね」

私は曖昧に笑った。このことは梨都子にも知られたことだし、次に二人の間に挟まれたら、酒の肴にされそうな予感がする。

タクシーのドアが開いたのをきっかけに、私はそそくさと清水に挨拶をする。

「それじゃあ、また」

タクシーから降りる間際、私の背中に向かって清水は言った。

「その人のこと嫌いじゃないなら、とりあえず電話してみたら?もちろん、他に好きな人がいるのなら話は別だけど」

動きを止めた私に、彼はさらに続けた。

「もしかしたら、何かが変わるかもしれないよ。……なんてね。余計なお世話だよな。またね」

「はい。あの、送ってくれてありがとうございました」

何かが変わる――。

それは梨都子からも言われた言葉だ。清水を乗せたタクシーを見送りながら、私は飲み友達二人の言葉を心の中で繰り返していた。
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