続きは甘く優しいキスで
「碧ちゃん、もう諦めて一緒に寝よう。明日は皆んなで遊びに行くっていう約束もあることだし。ね?」

自分の思いに囚われていた私は我に返る。拓真を見ると、黙り込んでしまっていた私に呆れた様子一つ見せず、穏やかに微笑んでいた。

その顔を見て、私は改めて思い出した。この人は私の過去の愚行も、今の私が置かれている状況もすべて、受け止めて受け入れてくれるような人だった。彼ならば私の心の内に気づいたとしても、その気持ちを上手に受け止め、あるいは上手に受け流してくれそうな気がする。

迷いがなくなったわけではなかったが、私はこくんと頷いた。

「分かった。じゃあ、お隣お邪魔するね」

拓真はくすぐったそうに笑う。

「どうぞ。さ、行こうか。こっちの部屋はもう灯りを消すよ」

拓真は私の手を取って、寝室へと向かった。

黙っていると緊張してきてしまいそうで、私はあえて明るい声で言った。

「明日の朝ご飯は私に用意させてね」

「ありがとう。もしも俺より早く起きた時には、ぜひお願いするよ」

目元を緩めて振り返る拓真に、私もまた微笑みを返そうとしたが、うまく笑えなかった。彼の手が寝室のドアを開けた途端に、鼓動がどきどきと跳ね出してしまったから。

私は静かに細く呼吸をした。ベッドに入ったら、さっさと目を閉じて寝てしまえばいいのだ。そうすれば余計なことを考えなくてすむだろうし、朝はあっという間にやって来るはず。そんなことを自分に言い聞かせながら、私は拓真に促されるがまま、彼の寝室に足を踏み入れた。

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