続きは甘く優しいキスで
「だって、最近まで私、あの人に……」

「それが気になるくらいなら、彼女になってなんて言わないさ」

「本当に?」

「本当だよ。俺が好きなのは『碧ちゃん』っていう存在丸ごとなんだ」

拓真はそう言うと、もう一度私の額に軽くキスをした。

「だから、軽蔑どころか大歓迎だ」

拓真は微笑むと、私の唇にゆっくりと自分の唇を重ねた。

その柔らかさにうっとりして、唇が緩んでわずかに開いた。途端に彼が唇を離す。

どうしたのと目で問う私に、拓真は脱力したように言った。

「人の気も知らないで、そんな風に唇を緩めるなんて」

「え?」

「まるで煽ってるみたいだ、ってことだよ」

そう言って拓真は私の唇を再び優しく封じた。

もっとほしい――。

そう思い、私は拓真の首に腕を回そうとした。

ところが彼はキスをやめて、私の隣にどさっと体を横たえた。

「終わり。これ以上は俺がヤバイ」

拓真はかすれた声で言いながら、自分の顔を腕で隠した。

「夕べは出張先だったから我慢できたけど、今夜はだめだ」

我慢って……。

頬が熱を持った。

私にもっと触れたいって思ってくれてるの――?

そう思ったら自然に動いていた。私は体を起こし、拓真の胸に手を置いて彼の唇に自分の唇を重ねた。彼の柔らかな熱をつかの間確かめてから、唇を離した私はその頬に触れる。

「俺、やばいって、今言ったばかりなんだけど」

拓真は喉の奥でつぶやくように言うと、私をベッドの上に戻して覆いかぶさった。私の頭を抱くようにしながら、今夜私に落としてくれたどんなキスよりも優しく唇を重ねた。
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