続きは甘く優しいキスで
「ごめんね。ありがとう」

「謝る必要なんかないよ」

諦めたように言って、最後には不承不承といった体で、拓真は私の言葉を聞き入れたのだった。

さて出掛けようかとパンプスを履き終えて、出がけの言葉を言おうと拓真に顔を向けた時、彼に名前を呼ばれた。

「碧」

「何?」

訊き返したと同時に、唇に柔らかい感触があって思わず体を引いてしまう。しかし、すぐにそれが何であったかに気づき、耳が一瞬で熱くなった。

拓真は私ににっと笑いかけた。

「普通は逆なのかもしれないけどね。――行ってらっしゃい。俺も後から出るけど」

「い、行ってきます」

私はどぎまぎしながら拓真に見送られて玄関を出た。

会社に近づくにつれて太田に出くわさないか不安になったが、途中で他部署の同期と会い、連れ立って出勤した。彼の待ち伏せに遭うこともなく、私は職場に無事到着する。ロッカールームで一緒になった企画部の先輩と雑談を交わしながら、管理部のあるフロアに向かった。

「おはようございます」

「やぁ、おはよ」

すでに出社していた斉藤に挨拶して、私は自分の席に座った。

デスクの上に仕事に必要なものを並べていると、拓真が出勤してきた。斉藤と挨拶を交わして席に着く。その手には紙袋を持っている。中身はお土産だ。

本当はその土産は私が持ってくるつもりだった。しかし、荷物になって大変だろうからと、拓真に取り上げられたのだった。過保護というか、なんと言おうか……。

思い出して苦笑しそうになった時、拓真が涼しい顔で私に声をかけてよこした。
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