続きは甘く優しいキスで
「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。ですが、この出張に同行させてもらって、笹本さんと色々話をする時間もありましたから、もう大丈夫です。互いにいい同僚としてやっていけるんじゃないかと」

田中は安心したように、拓真と私を交互に見た。

「そう?なら良かったけどさ。一緒に仕事をしてるわけだし、どうせなら楽しく働きたいからね。お、始業時間だな。あぁ、まずは先に朝礼だな」

田中が時間を確認したのとほぼ同時に、大槻の声が響いた。

「朝礼を始めましょうか」

週明けの朝礼は十数分程度で終わった。毎回内容はたいして変わらない。いつもと同じように、今週の予定と各課からの連絡事項の伝達や情報のすり合わせが終わり、各自席に戻る。

私は席に着くと、カレンダーに目を走らせた。今週は少しずつ年末調整用の資料作りに手を付け始めようか。頭の中でその工程をざっと考えているところに、田苗が目を輝かせながらひそひそと私に話しかけてきた。

「それで?北川さんとの出張はどうだった?」

「どうって、何が?」

実はどきりとしている私に気づいた様子はなく、田苗が畳みかけてくる。

「何かロマンスはなかったのかってことよ」

「そんなのあるわけないでしょ?仕事で行ったんだから」

「それはそうだろうけどさ……」

田苗が唇を軽く尖らせた。

「あんなに素敵な人と一緒にいて、本当に何もなかったわけ?せめて、ときめきの一つくらいはさ」

田苗の追求に、内心落ち着かなかった。しかし表面上はなおも冷静さを保ちつつ、冗談めいた言い方で返す。
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