続きは甘く優しいキスで
仕方ない。周囲に気を配っていれば問題ないだろう。拓真も言っていたように、会社という公の場で、太田が最悪な振る舞い、例えば暴力的な行動を取るとはさすがに思えない。彼はそこまで愚かではないだろう。

自分を納得させるように言い聞かせる。諦めて一人で行ってしまおうと席を立った時、コピー作業のために離席していた斉藤が戻ってきた。私を見て声をかけてくる。

「笹本、もしかして食堂行くの?だったら俺も行こうかな」

「あれ?斉藤さんは今日、愛妻弁当じゃないんですか?」

「たまには楽してもらおうかと思ってさ。その分、小遣いは減るけどね。ってことで、おごれなくて悪いけど」

「ご馳走になろうなんて、そんな図々しいこと、思っていませんよ」

苦笑する私に斉藤はあははと笑う。

「じゃ、行くか。俺ら、食堂行きますんで」

彼はその場にいる他のメンバーに声をかけて、私を促した。

食堂はなかなかに繁盛していた。少し待つか、相席を視野に入れれば座れないこともなさそうだ。

私たちは各自食券を買い求めてからカウンターに向かい、番号札を出した。半券をもらった後は、番号を呼ばれるまで待機するわけだが、空いている席を探しているとちょうど近くの四人掛けのテーブルが空いた。

「斉藤さん、あそこに座りましょうよ」

「おっ、グッドタイミングだな」

私たちはいそいそとテーブルに近づき、角を挟んで腰を下ろした。

「良かった、座れて」

ほっと一安心している私に、斉藤が不意に言った。

「笹本ってさ、太田となんかあったのか?」

「えっ?」

動揺してしまい、すぐに言葉が出てこない。

「別にプライベートに首を突っ込むつもりは全然ないんだけどさ。なんか心配になってしまって」

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