続きは甘く優しいキスで
私と太田の関係を知っていて、言っているわけではないようだ。しかしそれなら、何を見てそう言い出したのだろうかと気になった。何のことか分からないという顔で、私は斉藤に訊き返した。

「心配って、何のことですか?」

斉藤は声を落とす。

「笹本を見る太田の目、変じゃなかったか?もしかして何かトラブルでもあったのかと思って、気になってたんだよ」

朝以降も、何かの折に太田のじとっとした視線を感じてはいた。けれどまともに見るのが恐ろしくて、ずっと気づかないふりをしていた。斉藤だけではなく、他の皆んなも気づいていたのだろうかと、私は探るような聞き方をした。

「他の人もそれ、見たんでしょうか。私は全然気づきませんでしたけど」

「うぅん、他に見た奴はいないかもな。俺だって偶然目にしたってだけだから。でも、笹本には心当たり、全然ないのか?」

「そうですね、特には……」

もちろんそれは嘘だが、本当のことは言えない。

「そんならどうしてあんな目で、笹本のこと見てたんだろうなぁ」

首を捻っている斉藤に、私は笑顔を見せる。

「斉藤さんの見間違いだったんでしょう」

ところが、斉藤は腕を組んで私を真顔で見た。

「あのさ、余計なお世話かもしれないけど、あいつには気を付けた方がいいかもしれないな。万が一だけど、もしもあいつに言い寄られてでもいるんなら、よく考えて返事した方がいいと思うぜ」

どきっとした。

「何か知ってるんですか?」

「何だ?まさか本当に、言い寄られてんのか?」

「え、あ、えぇと……」

私は言葉を濁した。ここで反応を見せたのは失敗だった。

目を泳がせる私の表情から、まさに今口説かれている最中でもあるらしいと、斉藤は思ったようだ。
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