続きは甘く優しいキスで
斉藤は自分の半券に目を落として椅子から立ち上がる。

「俺の分だな。取りに行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

私の分もそろそろかな――。

頬杖をついて斉藤の背中を眺めていると、目の端に人影が入り込んだ。誰かが通ったのかと思い、何気なく目を上げて動きが固まった。顔から血の気が失せる。

「太田さん……」

表情を固めた私とは正反対に、太田はにこやかな顔をして私を見下ろしていた。

「ここ、一緒にいいか?」

喉が締まり声がかすれた。

「あ……」

そこへトレイを持った斉藤が戻って来た。

「あれ、太田も今日は食堂か?あっちの空いてる席に、経理の連中がいるみたいだけど、いいのか?」

私の様子に何かを察したのか、斉藤は太田に別のテーブルを示す。

しかし太田は笑って流した。

「違う課の人と食べたっていいだろ?笹本とは一応同期だしさ」

太田はにこっと笑い、そのまま角を挟んだ私の隣に座った。私の手元の半券の番号に目を落とす。

「今呼ばれたんじゃないか?」

太田の登場に気を取られて聞き逃したらしい。改めて耳を傾ければ、カウンターの方から私の持っている番号を呼ぶ声が聞こえる。このまま別の席に移動してしまおうと思い、休憩の時に持って出ているトートバッグに手を伸ばした。しかし、太田の方が私よりも早くバッグを手に取った。

「荷物は見ていてやるから、行って来なよ」

「あの……」

あの中には携帯が入っている。斉藤もいるこの場で何かするとは思えないし、ロックもかけてはいるけれど、それでもその中身をもしも太田に見られたらと思ったらぞっとした。そこには拓真とのやり取りが残ったままなのだ。
< 184 / 222 >

この作品をシェア

pagetop