続きは甘く優しいキスで
「また呼ばれてるぞ」

「……行ってきます」

斉藤に促されて、私は急いで立ち上がりカウンターに向かった。注文したパスタのランチセットを手に、できる限りの急ぎ足でテーブルに戻った。

「はい、バッグ。俺も呼ばれたから、取りに行ってくるわ」

太田は私にトートバッグを返してよこすと、注文の品を取りにカウンターに向かった。

斉藤は太田にちらりと目をやり、続いて私を見て、心配そうな顔をした。

「なぁ、笹本。やっぱり何かあったんだろ、太田と」

サラダをつついていた手が止まる。

「いえ、別に何も……」

「俺さ、これでも口は堅いぜ。少なくとも俺の目には、笹本が太田を怖がっているように見えるんだけどな。違うか」

「え……」

「まぁ、今は聞かない。さっき言った、例の飲み会での話もあるからな。何かあったら相談しろ」

今までも斉藤のことは頼れる先輩だと思ってはいたが、こんな風に言ってもらえて心底ありがたく思う。

「ありがとうございます」

「二人して何の話をしていたんだ?」

トレイを持って戻って来るなり、太田は私たちの顔を交互に見ながら訊ねる。笑顔を作ってはいるが、目は笑っていない。

斉藤がのんびりした口調で答えた。

「今度の就職ガイダンスの話をしてたんだよ。今年もそろそろ資料を作る時期が来るなぁ、ってね。結構量があるから、大変なんだよな」

「もうそんな時期なのか。早いな」

「そういや、経理の方は仕事落ち着いたのか」

「あぁ、ぼちぼちってとこかな」

斉藤の話に乗って会話を交わしている太田の声を聞き流しながら、私は黙々とフォークを動かしていた。

早く食べて自分の席に戻りたい――。
< 185 / 222 >

この作品をシェア

pagetop