続きは甘く優しいキスで
最後の一口分のパスタを口に運び、飲み込み終えて、はっとした。ふくらはぎの辺りを、つうっと何かが這うような感触があった。見なくても分かった。太田の靴先が私の脚を撫で上げていたのだ。ぱっと脚をずらし、ざわざわする思いでそっと目を上げると、太田が粘着質じみた目をして私を見ていた。ぞくりと悪寒が走った。

私は水を一口飲むと、バッグを腕にかけた。

「私、先に戻りますね」

どちらに言うともなく言いながらも、目は斉藤だけを見る。

斉藤が頷いた。

「俺もこれ食べたら戻るから」

「まだ時間もあるし、どうぞごゆっくり」

もうしばらく太田をここに引き留めておいてほしいと思う。しかし、そんな心の内に気づかれないように、作り笑顔を貼り付けて私は椅子から立ち上がった。太田に何も言わないのも変だろうかと思い、頭を軽く下げながら取ってつけたように言った。

「ごゆっくり」

「どうも」

固い声で短く答える太田の声に、みぞおちの辺りが苦しくなる。私はそそくさとトレイを手に持ちテーブルを離れた。

食堂を出てロッカーに向かって急いでいたら、廊下を曲がってすぐのところで誰かに急に腕をつかまれた。その先にあるのは自動販売機が並ぶ休憩コーナー。そこに行く手前にある非常階段側に引っ張り込まれた。

そんなはずはないと分かっていながらも、まさか太田かと一瞬青ざめた。しかし見上げたそこに拓真の顔を認めて、全身から力が一気に抜けた。

「びっくりした……」

膝が崩れそうになった私を、拓真の腕が慌てて抱き止めた。

「脅かさないで」

彼の腕に寄りかかり、私は全身でため息をついた。

「ごめん。脅かしすぎた……」

拓真がしゅんとした声で言う。
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