続きは甘く優しいキスで
「どうしてこんな所にいるの?」

呼吸と気持ちが落ち着いたところで、私は小声で訊ねた。

「さっきまでそこの会議室にいたんだ。お茶を買って戻るつもりで出たところで、碧に気づいた。ところで」

拓真は私の耳元に唇を寄せた。

「俺がいなかった間、あの人から何か言われたり、されたりはしていない?」

私はこくんと頷く。

「お昼ごはんは斉藤さんと一緒だったし、他も一人になったりはしていないから」

「それならいい」

ほっとしたように拓真が息をついた。それが耳にかかってくすぐったい。

「本当はいつもすぐ近くにいたいんだけど、なかなかそうも行かないもんだな」

「それは仕方ないよ。そう言えば、午前中から部長とどこかに行ってたみたいだね。ずっと部長と一緒だったの?」

「まぁね。たいした用事でもなかったんだけど」

「部長と一緒での用事をそんな風に言うなんて……」

苦笑をもらす私に拓真は悪戯っぽい目を向ける。

「今言ったことは部長には内緒だよ。それよりも午後も気をつけて」

「分かってるよ。だけど拓真君も言ってたじゃない。会社で何かしてくるなんてこと、ないだろうって。私もそう思うし……」

「そうは言っても心配なんだよ」

拓真は不安を揺らした目で、私をぎゅっと抱き締めた。

「仕事、戻らないとな」

そう言いながらも、彼は名残惜しそうに私の髪に顎を埋めている。

私もまだまだ彼とこうしていたいのはやまやまだったが、そういう訳にはいかない。

「私、行くね」

私はそう言ってから背伸びをして、彼にキスをした。そんな行動に出てしまった自分が急に恥ずかしくなって、彼の腕から自ら体を引き離し、ロッカールームへと足を向けた。
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