続きは甘く優しいキスで
首を縦に振る私を見て、太田の顔が嬉しそうに綻んだ。

「ありがとう。それじゃあ、あの店に行ってみようか」

「あの店?」

太田は悪戯っぽく笑うと、店の名前は口にしないまま、先に立って私を促した。

いったいどこに行くのだろうと考えながら、太田の後に着いていく。彼が足を止めた店の暖簾を見て気がついた。あの日、太田と食事をした店だった。その帰りのタクシーの中で、彼は私に付き合わないかと言ったのだった。答えを欲しがっている彼の気持ちが伝わってくるようだった。

店にいたのは二時間にも満たなかったと思う。

思い返してみれば、同じ課にいた時、太田とは仲が良かったとはいえ、そんなに多くプライベートの話をしたことはなかった。だから会話が進むにつれて、私も太田も以前にも増して互いに打ち解けていったように思う。それに伴うようにして、私の心にも少しずつ変化が生まれ始めてはいたが、気持ちが定まったと言えるほどではなかった。

食事を終えての帰り道、途中の公園で足を止めた太田は私の前に立ち、緊張した面持ちで言った。

「笹本、改めて言う。俺とつき合ってほしい」

言葉を探そうとしてやめた。太田の判断に委ねることになってしまうとしても、今の気持ちを素直に話した方がいいと考えた。顔を上げた私は、おもむろに口を開いた。

「私は今、太田さんと同じような気持ちでの『好き』ではないと思うんです。だから、頷くわけにはいかないかな、って思っていて……」
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