続きは甘く優しいキスで
「ちっ……」

太田は腹立ちを隠さず舌打ちする。

「笹本、話はまた今度」

私には猫なで声でそう言い、拓真に対しては憎々しげな視線を投げつけて、太田は足早にコピー室から出て行った。

私は大きく息を吐いた。

「ありがとう」

「いや。あの人に何もされなかった?」

心配を隠さない拓真に、彼を安心させようと私は小さく笑みを浮かべた。

「大丈夫よ。すぐそこには皆んながいるわけだし。だからそんな顔しないで」

「大丈夫なんて、うそじゃないのか?顔色が悪い」

「これは……」

私は頬を手で覆った。

「もう一度話したいって言われて、それでまた不安になってしまって」

「……やっぱり君のこと、諦めてはいないんだな」

私は肺の深い所からため息を吐き出した。

「いつまでこんな風に避けて、逃げ続けてなきゃいけないんだろう……」

拓真の表情が曇る。

そこへ斉藤が入って来た。

「笹本、コピーは終わったか?」

斉藤は私たちの深刻な表情に気づき、戸惑った顔をする。

「どうした?何かあったのか」

すぐに適当な言い訳が思いつかず、私は曖昧な顔をした。しかしその隣から、拓真が困ったような顔を作り斉藤に言った。

「笹本さんを手伝うつもりできたら、コピー用紙が詰まってしまっていて。なかなか取り出せなくて、困っていたんです。ね、笹本さん?」

「えぇと、そうなんです。最近このコピー機、調子が悪くて」

「またか」

斉藤は私たちの言葉を聞いて、コピー機の前にしゃがみこんだ。開けたままだった扉の奥を覗き込む。

「こいつも古いからなぁ。近いうちにメンテ来るから、その時見てもらうか」

腕まくりをした斉藤がコピー機の中に手を突っ込む。

私と拓真は一緒になって、斉藤が紙を取り出すのを見守った。
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