続きは甘く優しいキスで
部屋を入って右側の棚に足を向けて、すぐの所にある小さな台の上にいったん箱ごと置く。ボックスの中からファイルを取り出し、順繰りに棚に戻していった。

「よし、終わった……」

ひとり言をつぶやき、踏み台を戻そうとした時だった。ドアの開く音がした。誰だろうと思い首を巡らせ、私はひゅっと息を飲んだ。太田だった。

彼は私のいる方へ真っすぐに歩いてきた。

「手伝おうか」

「大丈夫です。もう終わりましたから」

私は全身に緊張を漲らせながら言ったが、太田は足を止めない。

外出って言っていたのに――。

私はごくりと生唾を飲んだ。

「何か用事があって来たんですよね?私はもう戻りますから。失礼します」

そう言って太田の傍を通り抜けようとしたが、行く手を阻まれた。

「用事があって来たには違いない」

つぶやくようにそう言うと、太田はゆらりと動いて棚の奥の壁に私を押し付けた。

「何するんですか!」

「だから、用事は笹本にあるんだよ。外出先から戻ってきた時に、ちょうどお前がここに入るのを見かけてさ。やっと二人で話せるチャンスが来たと思った。さて、本題だ。結論から言うと、俺はお前とは別れない。特にあいつ、北川なんかには絶対に渡さない」

太田に両の手首をつかまれて、壁に押し付けられた。さらに脚の間に膝を入れられて、私は身動きが取れなくなった。それでもなんとか逃れようと私はもがこうとした。

太田は私の首に手を触れ、軽く歯を立てる。

出張前のあの日、首を締められたことを思い出して、息が苦しくなった。

「なぁ、笹本、ほんとに好きなんだよ。だから俺と別れて、他の男の所に行くなんて言わないでくれよ」
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