続きは甘く優しいキスで
私は太田から顔を背けた。

「前にも言ったけれど、私、もう太田さんとは一緒にはいられないの。好きだと言う気持ちは微塵もない。あなたに触れられたくない。嫌なの」

「絶対に別れない」

太田の手に力が込められ、その顔が近づいてきた。

逃げよう、抵抗しようと思っても動けなかった。顔を背けたその目の前に、太田の腕があった。ささやかな抵抗をと考えた私は必死にそこに噛みついた。思ったほど手応えはなかったが、次の瞬間その腕が離れ、少し遅れて頬に鋭い痛みが走った。

「俺に噛みつくなんて……」

太田の目の色が変わったと思った。

私に痛い思いをさせるのは何とも思わないのに、自分は嫌なのね――。

「私に噛みつかれて痛いって思ったの?今くらいので?あなたなんか、嫌がる私のこと、さんざん噛んだりしたじゃない。痛いって言ってもやめてくれなかった。今だってこんな風に叩いたりして」

「うるさいっ」

同じ側の頬に、もう一度太田の平手が飛んできた。その勢いに負けて、頭が壁にぶつかってくらりとする。それなのに、太田はやめるどころかますます激した顔つきで、私の肩をぎゅっと掴んで壁に押しつけた。

「っ……」

「お前は黙って俺の言う通りにして、俺だけを見てればいいんだ。そうすれば、嫌っていうくらい優しくしてやる」

そう言って、太田は自分が叩いた私の頬を、今度は壊れ物でも扱うような優しい手つきで撫で始めた。

全身が粟立つ。

「だから、別れるなんて言うなよ」

その時ドアがバタンと荒々しく開き、足音高く入って来た人がいた。

「碧!」

拓真だった。
< 194 / 222 >

この作品をシェア

pagetop