続きは甘く優しいキスで
太田の肩越しに見えた恋人の顔にほっとして、全身から力が抜けそうになった。

拓真は私を真っすぐに見て大股で近づいてきた。私の前にいた太田がはっとして振り返ったと同時に彼の腕を捻り上げ、力任せに床に引き倒した。

「笹本、大丈夫か!」

拓真の後に続いて、聞き覚えのある声が聞こえた。目を上げたそこにいたのは斉藤だった。

どうして斉藤までここに居るのかと思っていると、拓真が当たり前のように彼に頼む。

「斉藤さん、この人のこと、抑えといてもらえますか」

「了解。しかし、太田、お前がこんなにバカなやつだとは思わなかったぜ。職場の同僚、いや、女に乱暴するなんて、クズ過ぎる」

斉藤に腕を背中で捉えられながら、太田は首を横に振る。

「違う、これには理由が!」

「違うって何がだよ。笹本の様子を見れば明らかだろ。それにどんな理由があったか知らないが、乱暴するなんて言語道断だ」

「っつ……」

斉藤に後ろ手でぐいっと強く腕をつかまれて、太田の顔が歪む。

目の前の光景をぼんやりとした目で見ていると、拓真が私の体にそっと腕を回した。

その感触に心の底から安堵した。

「来るのが遅くなってごめん。まさかこんなことになるなんて、俺の読みが甘かった。席に戻ったら碧も太田もいないから焦った。太田は外出してるって言うし、碧は資料室に行ったって言うしで、嫌な予感がしたんだ。斉藤さんも心配して一緒に来てくれたんだよ」

「北川さんが血相変えて出て行ったからな。何があったのかって、心配にもなるだろ」

太田の腕をぎりぎりと締めあげながら、斉藤が付け加えるように言っていた。
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