続きは甘く優しいキスで
拓真が私の顔を見て、痛ましそうに顔を歪めた。

「血がにじんでる……。唇、切ったのか」

私ははっとして唇に指で触れた。たぶん太田に頬を叩かれた時だろう。拓真がハンカチでそっと私の唇を拭ってくれた。

「医務室に連れて行く。あぁ、その前に電話を一本入れておかないと」

太田の顔色が瞬時に変わった。

「電話ってどこに……。まさか、警察……」

拓真は太田をひんやりと冷たい目で見下ろした。

「警察ね。場合によっては届け出を出すこともあるかもしれないね。でも、まずは上の方に報告をしないと」

拓真は携帯を取り出して、誰かに電話をかけ始めた。

「もしもし、拓真です」

『拓真』って……。誰にかけてるの?

私の怪訝な表情に気づき、拓真は安心させるように軽く頷いて見せてから電話を続けた。

「すいません。外出中なのは分かってたんですけど、問題が起きたもので。今、どこですか?もうすぐ戻る?それじゃあ、戻ってきたらすぐに報告したいので……。お願いします」

拓真は電話を切って、斉藤を見た。

「斉藤さん、すいませんが、その人を応接室まで連れて行ってもらえますか。部長はもうすぐ戻ってくるそうなんですが、俺が行くまでその人を見張っていてほしいんです。俺はまず先に、彼女を医務室に連れて行くので」

「今の電話、部長……?」

斉藤は困惑顔で拓真を見た。しかし、考えるのは後にしようとでも言うように軽く頭を振り、真顔になって頷いた。

「分かった。とにかく部長に話すってことだな。――ということだ。ほら、行くぞ」
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