続きは甘く優しいキスで
「でも、もっと早く駆けつけていれば、こんな痛い思いをさせなくて済んだのに……」

「これくらいで済んだんだから、もういいの」

腕を緩めて見上げた拓真の頬が、私の言葉に少しだけ和らいだように見えた。

彼はもう一度私を強く抱き締めてから訊ねた。

「ここでの用事はもう済んだんだよね?」

「うん」

「じゃあ、今日はもう早退しよう」

「早退?でも……」

拓真はあやすかのように私の背を撫でながら言った。

「どうせあと一時間ちょっとだろ。それにこのことは、部長だけじゃなく、課長たちにも話すことになるだろう。この話を聞いた後に、終業時間まで仕事をしろだなんてこと、彼らは言わないよ。周りの皆んなには体調不良ということにすればいい。斉藤さんがうまく話してくれるだろうから」

「だけど……」

さらに言葉を重ねようとする私に、拓真は困ったようなため息をついた。

「碧はもう少し『いい加減』を覚えた方がいいかもね」

そう言って私から離れて、拓真はジャケットを脱ぎ出した。何をしているのかと戸惑っている間に、彼は私の体の前をそれで覆う。

何――?

訊ねる暇はなく、私はあっという間に彼の腕に抱き上げられてしまった。

焦っている私に拓真は諭すように言った。

「大人しくしていて。自分では気づいていないだけで、実は色々と消耗しているはずなんだから」

そうは言われても、絶対に重いはずだと恥ずかしくてたまらない。

「大丈夫だから降ろして。お願い」

「だめ」

拓真は甘く微笑み私を抱く腕にきゅっと力を込めた。私を胸に抱いたまま資料室を出て医務室へと向かう。
< 198 / 222 >

この作品をシェア

pagetop