続きは甘く優しいキスで
私は顔を隠して、拓真の胸にしがみつくように体を寄せた。他の人の目を気にしないではいられない。

私の様子を見た彼が苦笑交じりの声で訊ねる。

「恥ずかしい?それとも俺たちの関係がばれたらまずいって思ってる?」

「両方よ」

もごもごもと、しかしはっきりと即答する私を、拓真は困ったように見る。

「恥ずかしい方は我慢するか、ジャケットで顔を隠すとかしてもらえばいいと思うけど、もう一つの方は……。残念だけど、一部にはもうバレてるだろうな」

「え……」

私は狼狽えた。

「だって俺、君がいないことに気づいた後からは、割と普通に『碧』って呼んでたような気がする。少なくとも、一緒に来てくれた斉藤さんは気づいてるんじゃないかな」

そう言えば、資料室に飛び込んできた時もその後も、拓真は私を「碧」と呼んでいた。

「でも、もう知られても構わないんじゃないか?だって、あの人の件はきっと今回で片が付くはずだ。いや、今日で片をつける。それに、うちの会社は社内恋愛禁止じゃないだろ?」

「それはそうだけど……」

拓真は畳みかけるように言う。

「だったらいいんじゃない?秘密にしておかなきゃいけない理由は、もうないだろう?この際だから、君が俺の大切な人だってことを公にしたい」

「公って……」

大仰にも聞こえる単語に私は戸惑う。

拓真はくすっと笑う。

「別に大っぴらに宣言するっていう意味じゃないから安心して」

拓真はそんなことを言いながら、すれ違う人たちの視線を気にも留めずに、足早に歩を進めた。
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